第5話  歩む道筋

 6月25日。


 4月の分散登校から一斉登校となって約1ヶ月。この高校ではいわゆる「衣替え」期間がない。制服は規定のものを規定通りに身につけておけばあとは自由だ。そのためここ数日の生徒たちの服装は冬服、中間服、夏服と入り乱れていた。


 この日、6限目の総合的な学習の時間を使って行われるのは、文理選択の講義だ。この学校では一学年のうちおよそ9割が大学へと進学する。そのため1年生のうちからこういった講義を受けるのだ。なお、今年は動画配信サービスを用いて、それぞれの教室で行われる。


 葵も玲もまだ、進路は決めていない。だが、正確には葵は大学には行きたい、玲は進学か就職かで迷っている状態だった。そして互いに気になるのが、やはりそれぞれの相手の希望している進路先であった。両片想いでしかも同じクラスなんだから聞けばいいのではないかとは思うが、そこはやはり思春期である二人にとっては酷な話だったようだった。


 そして、その日の放課後。

 葵はアキとともに家路へと向かっていた。


 アキは葵より少し小さめの159cmの少女。

 高校でも葵と一緒にバスケをやろうと考えていたのだが、彼女の必死な拒絶に負けて現在帰宅部の身でありながら家で筋トレなどをやっている隠れスポーツ少女だ。そんなアキは現在では体力などで葵に大きな差をつけており、どんなスポーツも卒なくこなす。


 それの賜物なのか、はたまたこの観察眼こそがその才能の秘訣なのか、彼女は葵の微かな紅潮に気づいた。


「葵、何か考えているでしょ?やっぱりあの人のこと?」

「ち、違うよ!アキちゃん!古賀くんのことなんか全っ然考えてなんかっ.....あっ(イケボ)」

「全く分かりやすいんだから(笑) へえ〜、古賀くんね、」


 しまったという顔をして、ますます紅潮させる葵。そしてアキはやれやれと右腕を葵の肩に回して、左手はスカートのポケットへ。その手は親指を人差し指指と中指で強く挟んでいた。そのクセが何を意味するのか今は本人のみぞ知る。


 一方、玲は同じく家路を自転車で走行していた。今日は進路について親と相談してこいと、1年生だけ部活を休むように顧問であり進路指導担当でもある井上飛鳥いのうえ あすか先生から言われたためだ。なおこの学校では当たり前のことである。


 せっかくの休みだからどこかゲーセンとかファストフード店で集まりたいとも思ったが、こんな時に集まっては井上先生から投げ飛ばされるかもと本気で心配し(先生の実家が柔道の道場をやっており、先生も黒帯だという噂)、やむなく近い者同士4人、山本、古賀(玲)、吉田、松尾で帰ることとなった。

 

 さて、第一声を上げたのは吉田だった。

この4人のなかではムードメーカーであり、意外と成績優秀な人物でもある。

「ねえ、みんな。進路のことどう考えとるん?」

「シンロ?何それ、美味しいやつ?」

「おまえ6限の話聞いてなかったのかよ。

文理選択のやつだよ。ベネッチアが来とったやつ」

「おまえもだ。松尾。どこの組織なん、ベネッチア。ベネットだろ?ベネット。」

「ねえ僕の話ば聞いてくれん?まじぴえんっちゃけど!🥺」

吉田の抗議で他3名は笑った。吉田はいじられキャラでもあるのだ。


「うーん、俺はまあ、ここ出たら酒屋の親父の後を継ごうと思っとる。そもそも俺大学に行ける学力ねーし笑」と山本。

「俺は大学で会計学学びたい。テレビで見たけど、簿記って将来役立つらしいし。

でも、実務を通して覚えたい気持ちもあるから、今は進学と就職で迷っている」と玲。

「俺は就職かなぁ〜 企業のサッカーチームに入って、稼ぎながらプレイしたい。ちょうど、今強そうなところがあってさ、そこに入りたいんだよなー」と松尾。


「で、吉田は?」

玲が言い出しっぺの吉田に聞くと、吉田は

少し考え込むそぶりを見せたあと、

「分からん!」と元気よく答えた。

どうでもいいが、いい笑顔である。


なんだよっ!分かんねーのかよ!と玲がツッコミを入れ、他2名は笑って、そのうち全員が笑い始めた。


6月25日。高校1年生。

もうすぐ第1学期期末考査が始まる。

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