第3話 彼の秘密は…

 同時刻、場所は変わって八目高校グラウンド。サッカー部所属の古賀玲は、同輩とともに話しながらグラウンド整備をしていた。


 兄・あさひから自分が所属している柔道部への入部を勧められたが、それを断り、サッカー部に入部して早1ヶ月。2,3年生合わせて50人を超える大所帯な部員数のため、練習場所のない1年生は走り込みやストレッチ、体幹トレーニングや壁当てなど、ほぼボールに触れられない練習状況だった。これならば7名しかいない柔道部に入部した方が良かったんじゃないかと思ったこともあった。


 でも、これまでに仲良くなった奴もいるしなぁーと考えて共にトンボがけしている7人と、ボールを拭いている3人と、ゴールを動かしている9人の仲間達を見て、やはり俺はここで頑張っていこうと密かに決意を新たにしたのだった。


 さて、そんな彼にはある悩みがあった。

 それはー


 帰宅途中、友人と別れて一人になった玲は、

 マスクを外し、背伸びをして呟いた。

「あ、あ、あー、あ"あ"、はぁ、まだ慣れねーなー、声作るの(カワボ)」


 そう、彼はいわゆる、『カワボ』男子なのだ。声変わりしたかしてないかは微妙。

 まだなっていないと信じるしかない。


 玲は普段は声を作って家以外では過ごしている。あれだ、ほら、女声で男を釣る奴いるだろう?あれの逆バージョンだ。


 彼は中学の合唱コンクールの練習で自分の声のことを知った。周りが徐々に少年から大人の男の声になっていくなか、彼は一向に声変わりが起きなかった。起きたとしても微妙な変化しかなかったから、彼の声は少年の、いやカワボのままだった。


 周りには明るく振る舞っていたが、家に帰れば悔し涙を流した。無理に低い声を出そうとしたら、逆に喉を痛めてしまうこともあった。兄はそんな弟を心配してくれて、たまに喧嘩もしたりしたけど、いつも味方でいてくれた。


 こんな声と付き合って早2年。

 大体ある程度声の変え方に安定感がつき、

 堂々と話せるようになった。元々友人たちとわいわいするのが好きな性格である玲は、スマホで調べたり、親や兄に相談したりしてこの窮地から逃がれる方法を模索した。


 この辺りについて言えば、葵よりも前に進もうとしている玲の方が人間的に好意を抱く。


 見た目に反してキチンとしたがる性格である玲は、帰宅後すぐに例の紙ロールを自身のブレザーの上着やスラックスの上にコロコロと転がし、アルコール消毒用のスプレーを振りかけた。


 更に手洗いうがい消毒をして、南西の向きにある2階な自室に上がり、消毒スプレーを吹きかける。そして制服をハンガーにかけ私服に着替える途中で、玲はある写真立の写真に映る人物に目をやった。それは、葵だった。

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