見知らぬ猫

 朝、目が覚めた。

 目覚まし時計は5を指している。


 まだ眠い目を擦って眼鏡を探す。

 手探りで取ったから、レンズが少し指紋で汚れた。


 スウェットの裾で眼鏡を拭く。

 顔を洗って、歯を磨く。


 そしてようやくお待ちかね。

 ごみ袋を持って、アパートの外へ。


 いつものように、ごみ捨て場へ向かおうとすると、何やら動物の声がする。

 声が聞こえる方へ向かってみると、階段の下に見知らぬ猫がいた。


 こっちへ来てくれ、と言わんばかりに

 ニャー、と一声。


「おはよう、見知らぬ猫さん。一体どうしたんだい?」

「ニャー」

「へぇ、そうかい」

「ニャー」

「ごめんよ、この袋の中に食べ物は入ってないんだ」

「ニャー」


 見知らぬ猫は、少し切なそうな顔をする。


 すると、たまたまアパートの前を通りかかった英国紳士風の三毛猫が話しかけてきた。


「その子はお腹を空かせている訳ではないよ。今日一日、雨風をしのぐ場所が欲しいみたいなんだ」

「そうだったんですか」


 やっと伝わったか、と言わんばかりに

 ニャー、と一声。


「あなたも外出の際は、傘の用意をお忘れなく」


 そう言い残すと、英国紳士風の三毛猫は、散歩を再開して去っていった。


 どうやら今日は、雨が降るらしい。

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