第24話 愛し合う男と女の魂こそ、我が神の欲するものなり
「よくいらっしゃいましたねえ。こんな場所までわざわざ、来られてなくてもよろしかったのにねえ」
「おばあちゃん? あなた、無事だったの?」
大鍾乳洞を進んでいくとその先に待っていたのはまるで巨大な劇場を思わせる開けた場所だった。
その中心に立っているのはスポットライトを浴び、主演女優のように静かに佇んでいるあのおばあさんだ。
「だから、メル! あなたはどこまでお人よしなんですか!!」
「ええ!? なんでよ?」
「気づいてなかったんですね、本当に。あんな、手がきれいなお年寄りがいるはずないでしょ! あの手はどう見ても若い娘の手でしたよ」
「へえ……アンドレって、意外と女の子のてとか、見てるんだぁ、知らなかったよ。はぁ、知らなかった」
「何で切れてるんです!?」
アンドレに怒られたよ?
別に変なことは言ってないと思うんだ。
おばあさんが無事で良かったじゃないか。
いや、それより、アンドレの目が別の女を見ていたっていう事実が許せないね。
うん、許せない。
意外と独占欲強かったのか、私。
「あんたみたいに素直でいい娘は嫌いじゃなかったですよ。本当、残念だわ」
おばあさんの顔の皮膚がドロドロと溶けていき、最後にひっつめ髪にまとめられていた白髪がボトッと地面に落ちていく。
それと同時におばあさんのいた場所に地割れが起き、盛大な土煙が巻き上がり、何が起きているか、一瞬分からなくなった。
「ふふふっ……さあ、お前たちの魂を我が神に捧げよう」
「何なの、あれ?」
「友好的でないのは間違いないと思いますよ」
「それは私でも分かるわ」
地割れとともに現れたモノ。
おばあさんだったモノ。
それは巨大な蠍に似た化け物なんて、簡単な代物じゃなかった。
確かに大きく、頑丈そうな両腕の鋏に八本の脚と毒針がロングソードほどもある尾。
姿は蠍そのものに見える。
だがその蠍の身体の上に人間の……それも女性の上半身がくっついているのだ。
きれいな濡れ羽色の長い髪は腰に届くほどに長く、何も纏っていない彼女の身体を隠していた。
もっとも私と違って、結構、立派なものをお持ちなようで隠しきれてない感じがするんだけどね。
顔は同じ女性である私が見ても見惚れてしまうくらいでまるで女神の彫像のように整っている。
全然、お年寄りなんか、じゃない。
普通に美女じゃない! 詐欺だ、詐欺。
右手に炎を纏ったロングソード、左手に水を滴らせるロングソードを構えながら、蠍の胴体がゆっくりとした足取りでこちらへと向かってくる。
もしかして、美女の姿で蠍って……セルケトなの!?
「愛し合う男と女の魂こそ、我が神の欲するものなり。故に狩ろう。お前らを」
「戦うしかないのかな……」
「悲しいけどここはダンジョンですからね」
「そうだった。ダンジョンだったんだ」
罠だったのかもしれないけど、親切にしてくれた人と戦うのは気が引けるんだけど、仕方ないよね。
もしかしたら、拳で語り合って、分かってくれるなんて、甘いことは考えない方がいいかな?
神がどうのって、全く話が通じない気がするし。
「アンドレは蠍の方の相手をお願い。私が彼女の相手をする!」
蠍はどう見ても物理系のアタッカーだよね。
堅い外骨格に覆われてるんだし、あの鋏と尾が厄介だと思う。
私は物理攻撃が苦手な訳じゃなくて、むしろ物理的に物言わすのは得意なんだけど相手にするとなると別問題だからね。
両手斧、それもかなりの業物を持っているアンドレの方が蠍には相性がいいと思うんだ。
上の美女は魔力を帯びた剣持っているし、二刀流だから、これはアンドレと相性が悪くて、同じ二刀流で魔法騎士に近い私の方が向いている。
「それじゃ、行くよ」
「了解です」
アンドレの方がやや前面に出ると中段に構えた両手斧を横薙ぎに払って、死角から伸びてきた尾の毒針を弾き返す。
やっぱり、彼の動体視力と身体能力はずば抜けていると改めて、感心する。
私には尾が迫ってくるのまでは見えたけど、軌道までは読めなかった。
うん、任せて正解だったね。
私は自分の分を頑張ろう。
「我が刃に風の流れを与えん!
私の魔法適性は光と風のみ。
光の適性はそれほど高くないが風の魔法なら、得意ではない支援魔法もいけるのだ。
右手のサーベルと左手のブロードソードに風の加護を付与したので刀身に疾風がまとわりつくような見た目になっている。
この状態だと思い切り振ることで剣圧に
正直、炎とは相性がいいとは言えないけどね。
アンドレの背後から、彼を飛び越えるように跳躍して、蠍の上の美女へと最上段から、斬りかかる。
金属同士がぶつかりあった甲高い衝突音が鍾乳洞に響き渡った。
「お嬢ちゃん、中々、面白い芸当が出来るのね?」
「くっ」
私の渾身の一撃があっさりと受け止められた。
それも片手だけである。
ちょっと信じられない自分がいる。
私は言われるのは嫌だけど相当な馬鹿力だ。
騎士団で私が両手で力いっぱい剣を振ってしまうと耐えられたのはたったの二人だけだった。
そう、団長とアンドレなのだ。
騎士団屈指の実力者ですら、両手で受け止めていたのを片手でしかも余裕だなんて。
そのまま、無理に力を込めずに反動を利用して、一回転して着地する。
「アンドレ、ありがと。こいつ、手強いね」
「そのようですね」
着地のタイミングを狙って、振り上げられた鋏の攻撃をアンドレが両手斧で弾き返してくれたお陰だ。
力が強いだけじゃなく、戦い慣れている感じがする。
これは正直、ちょっとやばいかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます