第21話 ええ、すごいと思います。馬鹿力が

 金属的な何かを巻いているようなギチギチという奇妙な音が息を止め、静寂が支配していたこの家に木霊している。

 何なの、あの音?

 何かをこう巻いているような音よね。

 似た音があるとしたら、クロスボウの弦を巻く音に似ているような。


「メル、危ないっ!」


 アンドレの声に鍛えられていたお陰なのか、反射的に飛び退って、自分がいた場所を見て、唖然とする。

 金属で出来た杭のようなものが三本、床板に突き刺さっていたのだ。

 もし、アンドレが気付いて、声を掛けてくれなかったら、どうなっていたんだろう。

 あんなのが刺さったら、致命傷は避けられたとしてもまともに戦える状態にはならないと思う。


「な、なに、これ……」

「犯人はどうやら、あちらさんのようですよ」


 アンドレが指差した入り口の扉を文字通り、突き破って現れたのは優しい面影のあるおばあさんではない。

 全身が銀色に輝いているけど、人が金属の鎧を着込んでいるという訳ではないらしい。

 四本の腕と足を持った人など存在しているとは思えないからだ。

 鎧を着ているのではなく、身体自体が金属で出来ているのだろう。

 そもそも、頭部というか、人間の頭に相当する部分自体が存在しないように見える。人間だったら、首が生えている部分が空洞になっていて、そこに瞳のように紅く輝く単眼が存在していた。

 前世ではこういうのロボットって言うんだろうけど、この世界は中世に近い文化のようだから、そんなのいないよね?

 でも、魔法がある世界だから、何でもありなのかな。

 カラクリ魔法兵とか、言うの?


「ターゲット確認……排除シマス」


 感情が全く籠っていない機械的な音声とでも言うんだろうか。

 私達の姿を単眼で確認したソイツは四本の手に備えられた武器を構え、戦闘態勢に入ったようだ。

 さっき、射出してきた杭状の物体は二本の腕が備えている大型の弩から、撃たれたもので間違いないだろう。

 さっきのは不意打ちだったのと私がぼんやりしていたのが原因だ。

 二度目はない。

 目の前にいて、今度は対処出来るんだから、あの弩の攻撃は恐れるほどのことはないだろう。

 問題は残り二本の腕が構えているファルシオンかな。

 扉を破ったのは恐らく、あのファルシオンによるものだろう。

 そうするとかなり威力があると見て、間違いない。


「アンドレ、前に出れる? 武器取る時間だけ稼いで欲しい」

「了解です! 手早くお願いしますよ」


 得物の両手斧を構えると力強い踏み込みとともに下段から斬り上げ、びっくりロボ(仮称)が振り下ろした両腕のファルシオンを受け止めた。

 その刹那、火花が飛び散り、激しい鍔迫り合いの音が部屋に響く。

 そうしてアンドレが作ってくれた時間稼ぎのお陰もあって、私はベッドの横に立てかけておいた得物を手に取る。


「待たせたね。この借りはあとでちゃんと返すから」

「たっぷり、返してくださいね」


 アンドレの答えにどことなく余裕がないのは激しく、何度も振り下ろしてくるファルシオンを捌くのに手一杯だからだろう。

 右手でキングから託されたサーベルを構え、左の手にはアンドレから貰った魔法付与の施されたショートソードを握る。


「アンドレ、奴の関節部分を狙えるかい?」

「少々、厳しいですね。俺が注意を引くんで頼めますか」

「ふふっ、分かっているよ」


 得物を手にアンドレの隣に寄り添い、機会を窺う。

 びっくりロボにはあまり、知能の高いプログラムがされていないのか、癖が読める。

 左腕のファルシオンを振り下ろすと見せかけ、横薙ぎにしてくる。

 それに応じて、打ち返そうとすると右腕のファルシオンを振り下ろす。

 この動きを一定のリズムで行ってくるだけだから、アンドレにとって対応するのはたやすいことだろう。

 両腕の攻撃を難なく、打ち返されて、一瞬の隙が生じたびっくりロボの膝の関節に向け、私は風の切断魔法を乗せたサーベルで横薙ぎに斬った。

 関節部分にダメージを受け、自重に耐え切れなくなったびっくりロボがガタンという音を立て、バランスを崩すが四本の足のうち、一本が動かなくなっただけなのでまだまだ、予断を許さない状況だ。


「さすが、メル。良くあいつの弱点分かりましたね」

「ああいうのはだいたい、関節が弱いんだよ」


 嘘です。

 前世で見たことあったのを実践してみただけだったりするから、あまり強く言ってしまうとボロが出て、アンドレに突っ込まれそうなだけなのだ。


「それで本命はこっちっ!」


 左手で構えていたショートソードを思い切り、投擲する。

 狙う先は赤く光る単眼、ただ一つ!

 投擲自体は騎士団時代に嫌というほど練習してきたから、外さないと思うのだがいかんせん、私は右利きなのだ。

 左手での投擲に関してはあまり自信がなかったのだが、今日は運が味方してくれたらしい。

 ショートソードはびっくりロボの赤い単眼に見事に突き刺さっていた。

 柄の部分まで刺さるほどにしっかりと刺さっているようなので内部まで壊せたのかな?

 びっくりロボはまるで命を失ったかのように動かなくなっていた。


「当たったよ、アンドレ! 私、すごくない?」

「ええ、すごいと思います。馬鹿力が」

「え? 何か、言った? 最後の方が聞き取れなかったけど」

「いえ、何も言ってませんよ」

「ふぅ~ん、本当に? 何か、聞こえた気がするんだよね。まぁ、そんなことより」

「ですよね。じゃ、壊しますか」


 屑鉄に変えるとまではいかなかったけど、関節部分を重点に動けないようには出来た。

 寝ているところを起こされたからなのか、すごく疲れた…。

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