第16話 そういうことは終わってから、言うもんです

 昔、読んだことのある神話だったと思う。

 その神話に出てきたのが同じように人型で巨大な動く金属製の像だったのだ。

 その時に勇者たちがが金属像を倒した手段が踵にある栓を攻撃し、像の体液を抜くことだったはず。

 この鎧の化け物が同じ類の物かは分からないがやってみる価値はあるだろう。

 私の記憶があてになるのかという大きな不安要素はあるが、女は度胸だ!

 やってみよう。


 アンドレが鎧お化けの前で目を引くように派手な攻撃を繰り出しているせいか、私はいとも簡単に背後に回ることが出来た。

 腕が伸びる以外は本当、大したことないんじゃないの、この鎧!


「本当にあるなんて!」


 鎧お化けの踵には金属の塊で覆われている全身とは異なる部材で構成された栓のような物があった。

 あそこから体液を流し込んで栓をしたから、抜いたら全身の体液が抜けて、行動不能になるんじゃなかったかな。


「風の刃よ、我が敵を切り裂け」


 風刃ウインドカッターを詠唱し、踵に向けて撃つ。

 それくらいで壊れるという保証はない。

 二段構えでサーベルとブロードソードを構え直し、大きく跳躍してから、勢いをつけた二振りの刃を踵の栓に向け、振り下ろした。


 踵に止められていた栓は私の魔法と剣の波状攻撃により、断末魔の悲鳴のような少々の騒音を立てると粉砕されて、跡形もなくなった。

 巻き込まれるのを避けようと大急ぎできびすを返して、鎧お化けから、離れる。

 アンドレには目配せをしただけで分かってもらえた。

 彼も素早く後方へとやや距離を取ったから、巻き込まることはないはずだ。


「さあ、どうなるかな」


 腕を伸ばして、ロングソードでアンドレを横薙ぎに斬ろうとするものの動きを読んでいた彼はあっさりと回避する。

 腕が伸びるという種がバレた以上、避けるのにさして苦労することはないんだよね。

 結構、動きが大味なんだと思う。

 そして、鎧の動きが止まった。

 踵から、人の血液が流れるのと同じように真っ赤な液体が流れ出てくる。

 その液体は高温なのか、蒸気が凄まじく、見る間に視界が真っ白な色で塗りつぶされていく。

 霧でこの場が支配されてしまったように感じるくらいだ。


 動きが止まった鎧お化けを険しい目つきで睨んでいるアンドレの隣にそっと寄り添うことにした。

 さすがにもう平気だと思うが今まで何度も言葉に出すと危ない目に遭っているのやめておこう。

 二度あることは三度あるものね。


「終わったよね?」

「最後の最後まで終わらないと分かりませんよ。メルはその辺りが甘い。首を飛ばすまで終わりじゃないですよ」


 そんな怖い顔をしていなくてもいいのに。

 彼が本当は優しくて、誰よりも泣き虫だった頃から、知っている私には分かる。

 私が無茶ばかりするもんだから、彼は必要以上に気を張っているだけなんだ。


「大丈夫だって。アンドレがいるから、私は大丈夫なんだ」

「そういうことは終わってから、言うもんです」


 そう言っているアンドレの表情はちょっと柔らかくなっているような気がした。


「うーん、さすがに終わったでしょ。液体流れ終わったし」

「そうみたいですね」


 その言葉が合図になったかのように鎧が頭から、ガラガラと音を立てて崩れていく。

 数秒もしないうちに騒々しい音が響き終わり、残されたものは金属の塊から為る瓦礫の山だった。

 私達は瓦礫の山を横目にその奥にあった第三階層への階段を下るのだった。


 ⛄ ⛄ ⛄


「こ、今度は寒いとか、どうなってるの」

「これは準備してこないと無理ですね」


 階段を抜けた先で待っていたのは雪国だった。

 一面の銀世界だよ、おかしいって。

 思わず目を疑った。雪国とか、本当ありえない。

 暑いの次は寒いとか、本気で嫌がらせしてきてるでしょ、これ。

 ダンジョンマスターなんていう存在が本当にいるのか、知らないけどこの状況見て、楽しんでいる輩がいるとしたら、とてつもなく性格が悪いのかな。

 それとも何か、別の思惑があるとか?


 ともかく、現在の装備ではこれ以上進むのは困難であると判断し、撤退することに決めた。

 ブルードラゴンの戦利品があったんだし、今日は十分頑張ったよ。

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