第14話 意外とチョロインだった
奇跡的なことに怪我人も出さず、ブルードラゴンとの死闘に終わりの鐘が鳴ったのである。
一番、心配だったのは直接、ドラゴンの攻撃を受けたアンドレだったが怪我といっても頬に衝撃波による掠り傷が付いたくらい。
拍子抜けしてしまう程にフィナーレはあっけなかったが、
サンドランナーは慣れた手つきでブルードラゴンを解体していき、武具や装飾品に使えそうな部位と食べられる部位を器用に分けていた。
取り出された蒼玉色の魔石はとてもきれいで宝石として市場に出せるのではないかと思えるくらいだ。
「この魔石はあなたの物。あなた達のお陰。僕ら、家帰れる」
シャルバンがブルードラゴンの魔石を私に渡そうとしてくる。
「それはおかしいだろう。あの弓がなければ、奴には勝てなかった。私は弓を借りただけに過ぎない。これはお前たちのものだ」
私は弓を借りて、撃っただけに過ぎない。
あの弓がなければ、勝てなかったのだから、弓を持っていた者に権利が生じるのではないだろうか。
そう考えると受け取る訳にはいかないのだ。
「僕らはあなた達にこれ受け取って欲しい。冒険者、魔石必要聞いてる。僕ら、素材で十分。だから持ってくがよろし」
「メル、ここは受け取っておくのが礼儀ってものですよ」
「そうなのか……なら、有難く受け取っておこう」
これ以上、断るのは逆に失礼にあたるということか。
魔石は特殊な品だけに扱いが面倒とも聞いているし、素材だけでもドラゴン種だから、結構な金額になるだろう。
「僕ら、家帰ります。あなた達これから、どうするのですか?」
「次の階層へのゲートを探すつもりだよ。手掛かりすら、掴めてないんだけどね」
両手を上げて、お道化るように言ってみるが正直、あまり決まっていないと思う。
前世から、冗談の類は苦手だったからだ。
君はそんなことしなくても面白い奴だから、と言われたこともあったが私のどこがそんなに面白いのだろうか。
「ゲート、多分、あちらの方角です。それから、これもあなた達持っている方がいい」
日が沈む方を指差しながら、シャルバンがドラゴンの鱗がたくさん入った革袋を手渡してくれた。
ドラゴンの鱗は強固で加工すれば、高い防御力を誇る防具になることだろう。
青いドラゴンの鱗だから、視認性という意味で地上では目立ってしまうから、微妙なところだが。
「ありがとう、また会おう」
「ありがとう、僕らの勇敢な騎士殿。また会える日までさらばです」
力いっぱい手を振りながら、オアシスを離れていくサンドランナー達の姿が砂塵の向こうに消えるまで眺めていた。
彼らの姿が見えなくなり、訪れてくるのはやはり、寂しさだろう。
先程まで賑やかという訳ではないものの二人だけでは感じられない人と人の係わり、温もりというものがあったのだから。
「メル、そろそろ行きましょうか」
「あぁ、そうだね。行こうか」
「寂しいですか? 俺と二人きりは嫌ですか?」
「そ、そんなことはない。二人きりだから、嫌なんてことはないから」
慌てて、首を横に振り、否定する。
そうしなければ、アンドレの心が私から離れていきそうな気がしてしまったから。
そんなことはないって、分かっているのにどこか不安に思ってしまう自分がいるのだ。
「じゃあ、行きましょう」
「う、うん」
アンドレは半ば、強引に私の手を握って、すたすたと歩き始める。
いきなり手を握ってくるなんて、反則。
心の準備が出来ていないのにそんなことされたら、心拍数が!
心臓がおかしくなってしまうじゃない。
そのせいでうん、とか変な返事してしまうし。
「はぐれるといけないから、こうしておきましょう。これで安心ですよ」
「ふぇ!?」
握っていた手の指と指を絡めあって、ぎゅっとお互い握り合う。
これって、恋人繋ぎではないの!?
無理無理、難易度高すぎるでしょ。
いきなりはないから、やめて欲しい。
本当に心臓に悪いんだから。
やめてって。
……やっぱり、やめないで。
これ、好きかも。
自分はチョロすぎなんじゃないかと反省しつつも素直に心のままに生きるのもありじゃないかとも思う。
それから砂に苦労しつつも歩みを進め、恋人繋ぎでたまに顔を見つめ合うのにも私が慣れてきた頃、私達の前に壮麗という言葉にふさわしい空気に包まれた神殿と思しき建物が姿を現すのだった。
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