第13話 蒼き閃光を撃て
「僕らはあのドラゴンを倒したいんです」
林に隠れてドラゴンから、身を守っていたという獣人達はこの砂漠を旅しながら、暮らしている獣人・
サンドランナーは二足歩行のもふもふとした触り心地が良さそうな毛並みに背丈は私の胸辺りまでもないくらい小柄な獣人だ。
どこかで見たことある生き物に似ていると思ったら、前世で動物番組を見た時に出てきたフェネックによく似ているのだ。
つまり、滅茶苦茶かわいい。
ずっともふもふしていたいくらいのかわいさなんだよ。
「しかし、私達が戦っているところを君達も見ていたんだろう? 逃げるだけで手も足も出なかった私達が力になれるのか?」
その言葉に無言で頷くサンドランナーの面々。
それなのに私やアンドレの力があれば、あの化け物を倒せるというのだろうか。
「僕達、あいつの姿見えます。でも、僕達は力ない。あいつ倒せないんです。あなた達違う。あいつ倒せる力あります。これ、あなた使える」
サンドランナーのリーダー・シャルバンが私の目をじっと見つめながら、そう言って、弦だけで私の背丈以上ある大きな弓を渡してくる。
「これはもしかして……」
「竜殺しの弓です。僕らには使えません」
そう私はエルフだ。
エルフは一般的に弓の扱いに長けていると思われている。
それは決して、間違いではない。
私は男として育てられたのに加え、騎士団にいたのだから、ある程度、どんな武器の扱いにも対処出来るよう訓練を受けている。
そうは言ってもある程度であって、得意不得意というものは多少あるのだけど弓はどちらかと言えば、得意な武器だったりもする。
それでも天性の才能を持つ妹に比べれば、見劣りするんだが。
「その弓なら、本当に倒せるのか?」
無言で頷くシャルバン。
彼にとって、その答えは確信の持てるものではないのだろう。
恐らくはあの弓に伝承や伝説の類でドラゴンを倒したとされているに違いない。
だが、それでも彼は人を率いる者として示さなければ、ならないのだ。
信じるということを。
そうしなければ、彼らに明日が来ないのだろうから。
「分かった。私が必ず、あれの息の根を止めよう。この剣に誓って」
私は弓を受け取ると腰に佩いているサーベルに誓った。
今度こそ、守ってみせるから、お前の分も。
「では作戦を立てますかね」
アンドレの顔に陰りが見える。
名案を思い付いたのに違いない。
ただ、それは犠牲を伴うもので私が聞いたら、反対されるのを知っているんだろう。
だから、あんな顔しているのだ。
🐉 🐉 🐉
アンドレの立てた作戦はこうだ。
サンドランナーによるとブルードラゴンは上空を旋回して、獲物が出てくるのを待っている。
それを逆に利用して、わざと見やすい場所に囮となる者が林から出る。
囮役を自ら買って出たのはアンドレだ。
彼はサンドランナーの目があれば、回避と防御が可能になるから、大丈夫と皆を安心させるように笑顔で言っていた。
いくら、目で見えていたとしても上空からの高速攻撃に対処するのは危険極まりない。
しかし、アンドレが命を張って、その役をやり通すと決めたんだ。
私は私の出来ることを完璧にやらねば。
「それじゃ、行きますよ。3……2……1……ゴー!」
両手斧を構え、林を飛び出すアンドレ。
その背中には彼の目の代わりとなるサンドランナーの青年アドルナンが負んぶされている。
紐でぐるぐると巻いてあるから、落ちることはないだろうが動きが激しくなるから、揺れは大丈夫なんだろうか。
「よしっ、私達も準備しよう」
私は竜殺しの弓に矢をつがえ、その時を待つ。
待つのは嫌い。だけど今は待たねばいけない。
私だって、自分のやらねばいけないことくらい分かっているつもりだ。
「右上空からきまっす!」
アドルナンの叫びに反応して、アンドレはステップでブルードラゴンの鉤爪を躱すと斧でその翼を上段から、打撃を与えようとするもその前に奴はもう上空へと飛び去っている。
思った以上に速いな。一瞬で離脱していくとは思っていなかった。
タイミングを外したら、二度とチャンスはないだろう。
知性というよりも動物的な勘で隙を見せなくなる。
今までそういう獣と戦ったことがあるから、分かるのだ。
チャンスは一度きりって。
「今度は真上きまっす!」
アドルナンの叫びはもはや悲鳴のようだ。
今度はステップではなく、全速で前方に駆け出し、カウンターのように下段から両手斧を切り上げた。
アンドレの奴、腕を上げた!などと喜んでいる場合ではない。
私も弓を大きく引き絞り、狙いを定める。
チャンスは今しかないのだ。
堅い物同士が激突し、耳障りな騒音と共にブルードラゴンの右脚にアンドレの斧の一撃が入り、一瞬だけだがその動きが止まった。
「今だっ!」
引き絞った竜殺しの弓に秘められた力を解き放つと矢は風切り音と共に一直線にブルードラゴンへと突き進んでいく。
「ぐぎゃああああ」
私の放った竜殺しの一撃が奴の額を貫き、断末魔の悲鳴を最期にブルードラゴンはその巨体を大地に横たえた。
勝った、勝ったのだ、私達は。
「や、やったー!」
サンドランナー達から、歓声が上がるとその場にいた全員がまるで緊張の糸が切れたかのように座り込んでいた。
私も掴み取った勝利の余韻よりもどうにか終わらせられたという安心感からか、力が抜けてしまい、蹲ってしまうのだった。
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