第12話 これが青天の霹靂か(不正解)

「暑い……アンドレの言う通り、パンツルックで来て、正解だった」

「そうでしょうよ。砂漠は特別ですからね。マントで体を覆って、なるべく肌出さない方がいいんですよ」


 アンドレが薦める道具類を揃えて、第二階層の砂漠へと足を踏み入れたがまず、その暑さに降参寸前だ。

 彼の言うように足が出ていたワンピース姿では肌が露出しているから、酷い目に遭ったに違いない。


「こんな暑くて、上から何が襲ってくるか、分からないなんて嫌な場所」

「あのメル。メルが変なこと言うと嫌な予感するんですが」

「そんな馬鹿な話があるもの……あったし!」


 二人とも身を翻して、間一髪躱す。

 私達がいた地面が抉れており、その衝撃の凄まじさを見せつけていた。


「危なかったな。何だ、今の?」

「上から、攻撃してきたんだと思いますよ。メルが余計なこと言うから」

「私のせいなのか!?」


 言い争いを始めた私達を狙って、第二波、第三波と目に見えない攻撃が地面を抉っていく。

 私もアンドレも勘で避けているだけなので油断をしたら、抉られた地面と同じ運命を辿るだろう。


「あぁ、もしかしたら……」

「何だ、何か、心当たりのある魔物がいるのか?」


 二人ともジグザグに駆けながら、怒鳴り合って話している訳だから、傍目から見ると滑稽かもしれない。

 本人としては必死な訳だが。

 冒険者二日目で死亡なんて、笑えないじゃない。


「ブルードラゴンの可能性がありますよ」

「なんだって!?」


 ブルードラゴンって、またドラゴンが行く手を阻むというこのクソゲー感いい加減にして。

 ブルードラゴンといえば、ドラゴン種にしては大型の方ではなく、飛竜に近いタイプだったはず。

 ランク的には下位種と中位種どっちともいえないくらいに区分されていて、ブレス攻撃が出来ない代わりにその名前の由来になった美しい青い鱗を利用して、晴天が多い砂漠地帯を狩場としている。

 その理由が青空に青い鱗が溶け込んでカモフラージュのようになるから、と聞いたが。

 なるほど、それでどこから、攻撃されたのか、分からなかった訳だ!

 青空を利用しての急降下攻撃を仕掛けてきていたのか。

 王者と呼ばれるドラゴン種の癖にせこくて、卑怯な奴のようだが実際、苦戦しているのだから、勝たない限りは文句も言えない。


「どうやって、倒す? 何か、いい手が……いい手がないものか」


 足を止めると奴の鉤爪の餌食になりそうなので考えている暇すらないのだから、困る。

 少しでも迷いを見せたら、胴体に風穴が開く自分の姿が想像出来る、うん、それは嫌だ。

 せめて、恋をして、結婚して、色々したいことはたくさんあるんだ。

 こんなところでドラゴンに轢かれて、死ぬとか拒否だよ、拒否。


「とにかく、これではこちらが圧倒的に不利ですね。あそこに見えるオアシス地帯まで……行けますか、メル?」

「行けるとも! アンドレこそ、遅れるなよ」


 敵を撹乱する為に各々ステップを織り交ぜながら、全速でオアシスへと駆ける。

 私のすぐ後ろの地面が抉られたようだが確認している暇などない。

 そんなことしていたら、抉られるのが自分だもの。


「あっははは、私の勝ちだね」

「何でも勝負にするのは良くないと思いますね」


 半歩ほどの差で私の方が一足早く、オアシスに到達した。

 私の勝ち。

 勝負していた訳じゃないけど勝ちは勝ち。

 背丈で抜かれ、筋力でも勝てないアンドレに唯一勝てるのはこの敏捷さくらいなんだから、こんな時くらいは勝ち誇る私を許し欲しい。

 それにちょっぴり悔しがっているアンドレの顔がかわいいのでこれが最大のご褒美という訳。


「しかし、予想通り、攻撃が止みましたね」

「そのようだな。やはり、上空からこちらの出方を窺っているのだろうか?」

「でしょうね。それにしてもこんなにも確認し辛いのは変ですよ」

「まさか、視認阻害の……」

「そのまさかの可能性高いのでは? いくら視認しにくい青空と青い鱗とはいえ、メルと俺二人ともの目から逃れ続けるのはあり得ませんよ」


 アンドレが驚いているのも無理はないことだと思う。

 私が副団長を務めていた神聖騎士団は少々、特殊な騎士団である。

 近衛騎士団の一角として、王族の身辺警護を任務としているが対人戦に特化すべく、者を優先的に登用しているのだ。

 私とアンドレもから、選ばれていた訳だし、中でも優秀な部類であったという自負もある。

 その二人の目から、見ることすら出来ないというのは高速で飛び回り、視認しにくい色合いとしてもおかしいのだ。


「うーむ、視認を阻害されているとなると手の打ちようがないではないか。あれは倒せない扱いのお邪魔キャラではないのか?」

「お邪魔キャラって、相変わらず、変な例えしますね」


 ブルードラゴンの攻撃を受けないように大木の陰で身を寄せ合うようにしながら、相談しているから、すぐ隣にいるアンドレの呼吸を感じてしまい、急に恥ずかしくなってくる。


「もう少し、離れてくれない?」

「どうしてですか? 危ないですよ、下手に離れると」


 そう言いながら、さらに近付いてくるアンドレのせいで私の心臓がオーバーヒートするんじゃないか。

 というよりもだ。

 こいつ、もしかして、わざとやっている?

 私の反応を見て、揶揄っているのかもしれない。


「メル、気付いてなかったんですか? 俺達、誰かに見られている……それもたくさんの誰かにですよ」

「何だって!?」


 しまった!

 最近、アンドレのせいで調子が狂って……いや、違う。

 私自身がもっとしっかりしないといけないだけなのにアンドレのせいにするなんて、いけないことだ。


「出てこい、いるのは分かっている。答えによっては力になろう」


 私の呼びかけに応じてくれたということなのだろうか。

 オアシスの林から、ぞろぞろと出てきたのは獣人の一団だった。

 皆、手には飛び道具である弓や弩を持っているがそれを私達に向けていないのは敵意がないという意味なんだろう。

 それよりもだ。


「か、か、かわいいっー」


 大きめでちょっと吊り目気味のお目目がくりくりしてて、もふもふしていて、もうとにかくかわいい獣人だ。

 彼らはかわいいを連呼する私に若干、いや、かなり引いていたが意を決したようにリーダーらしき人物が言い出した。


「僕らはあのドラゴンを倒したいんです」

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