第11話 進むも地獄退くも地獄、だから進もう
ゴブリン・イーターの魔石を買い取ってもらおうと冒険者ギルドにやって来た訳だが。
「何でギルド支部長の部屋に通された?」
「俺が知っているとでも思いますか? メルはたまにポンコツ思考だからなぁ」
「ポンコツではないぞ。ちょっと、いやたまに鈍くなるだけだっ」
「待たせてすまないね。イトリッツ支部長のベルノルトです」
「メルツ……メリーですわ」
「俺……いえ、私はアンドレです」
自己紹介は大事。
第一印象は特に影響するから、しっかりしておかないといけない。
ベルノルトは三十代に入ったばかりのまだ、青年でも通りそうな若さが残った金髪のイケメンだった。
この見た目でギルドの支部長ともてない要素がどこにも見当たらない、むしろもてる要素しかない完璧男に見える。
彼と握手を交わし、腰を下ろした私達は本題へ入ることになった。
「君達と直接、話したいと思ってね。忙しい時にすまないと思っている。だが、大事なことなのだよ」
「と申しますとあのゴブリン・イーターですか?」
「ほお、さすが察しがいいね。そうゴブリン・イーターの件だよ」
やはり、あのドラゴンはイレギュラーだったということかな。
一階層から、ありえないでしょ。
クソゲーだよ?
次の日に買取に出しても仕方ないクソゲーじゃないかな。
「やはり、あのような魔物が出現するのがおかしかったということですね」
「お二人は不帰の迷宮の伝説を御存知かな? かの迷宮を作りし者は人にあらず。人かの者を神とも悪魔とも呼ばん。我々よりも高い知性と能力を有する何者かが絡んでいるとは思えないかな」
「ベルノルト殿、ではあの異常はそのような存在の干渉があったとお思いなのですね」
私の問いにベルノルトは無言で頷く。
この世界、神は意外と身近な存在だ。
一応、エルフの王女である私も神の血を引いているらしい。
古い話なので本当にその血が残っているのか、とか神が本当にいたのか、とか。
疑問を感じることは多々あるのだが直接会ったことのない姉の神々しい姿とかわいい妹の異常な魔力を見ているとあながち、嘘ではないと考えている。
私?私は次女だからなのか、地味なので残念だ。
ちょっと力がある程度でこれくらいなら、掃いて捨てる程いるだろう。
「お二人を気に入った、ということでしょう。そう考えないと辻褄が合わないのですよ。普通の冒険者には一階層などゴブリンと戦うだけの何のイベントも起きない場所に過ぎません」
「それで私達に支部長であるベルノルト殿自らがこうして、お会い下さるのですから、何か理由があるのですよね」
ランクE、それも昨日、冒険者になったばかりの私達が支部長室に呼ばれているという事実は何か、厄介事に巻き込まれるということに他ならない。
「何も難しいことをしていただこうとは思っていないよ。簡単なことだ。その何者かとの交流が出来たらとは思わないかね?」
「はぁ、それでもし私達がそれを断った場合は……」
「断れるのかな。ヴァイスリヒテン王国第二王女メルツェーデス様」
ベルノルトはそれまでの柔和な表情を捨て、鋭い目つきで私を睨みながら、そう言った。
「国に知らせるおつもりですか?」
私が問い詰めるよりも先にアンドレが鋭い視線を隠そうともせずに言った。止めないと下手すると殴りかかる勢いではないか。
「私がそのようなことをすると思うかい?」
薄っすらと笑みを浮かべているベルノルトだが心からの笑顔でないことは明らかだ。
やはり面倒事、それも相当なのに巻き込まれてしまった。
「分かりました、その話、お受け致します」
「メル、それでいいんですか?」
アンドレが隣でやかましいが仕方がないじゃないか。
それにそんな高次元の生物がいると思うとワクワクしている自分がいたりもする。
冒険してこそ、冒険者。
冒険者になって良かったと思えるようなワクワクする冒険に出会えるんじゃないだろうか。
🏙 🏙 🏙
「メル、本当に良かったんですか?」
「あれを拒否出来ると思うのかい? 拒否していたら、間違いなく国にUターンだよ」
うん、間違いないと思う。
あのベルノルトという男、あそこで申し出を拒否していたら、容赦なく私達を引き渡していたに違いない。
「それにあのゴブリン・イーターの魔石を金貨30枚で引き取ってくれたぞ? 当分、これで余裕に暮らせる金額ではないか。おまけにもうDランクにしてくれた。譲歩するにしても十分だ」
「そうなんですが……何か、気に入らないんですよ」
アンドレが不満も露わにして、不機嫌な顔になっているが気持ちは分かる。
だけど、我慢しなくてはいけないところなんだとも思う。
宮仕えしていた時もこういう板挟みで苦しむことが多々、あったものだが自由な身になっても逃げられないとは思わなかった。
釈然とした気分のままだが予定は予定。
私達は用意しておいた道具や装束類が無駄にならないようその足で不帰の迷宮へと足を向けるのだった。
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