第7話 仲良くなれそうな気がしないな
私がキングの手を引いて、先を歩き、アンドレが周囲を警戒しながら殿を務めてくれている。
それにしてもだ。
よく考えなくてもゴブリンがいる冒険者パーティーおかしくない?
そう思いながらもキングの手を引いて、探索を続けているのだから、三つ子の魂百までで染みついた騎士道精神とは簡単に抜けないものなのだろうか。
私はキングの境遇を聞いて、助けてあげたいと思った。
相手はゴブリンなのにね。
「じゃあ、キングの家族はその悪魔に殺されたのね?」
「父サマ母サマ、ソイツニ喰ワレタ。オデ逃ガソウトシテ……」
子供を守る為に自らを犠牲にするなんて。
魔物だって言ってもゴブリンにも家族への愛が深いのかしらね。
それともキングの家族が特殊なだけ?
でも、キングが持っていたサーベルは魔法文字が刻まれたいわゆるマジックソードの一種だ。
銘もあるみたいだから、相当の品なのは間違いない。
そんな物を所有している一族ということはキングは本当にキングなのかもしれない。
「もしかしたら、ですが。彼らを襲ったモンスターはゴブリン・イーターの可能性がありますね」
「ゴブリン・イーター? 聞いたこともないな」
「オデモ知ラナイ」
周囲の風景が木々に囲まれ、深緑の香に包まれていた何処となく心地よく感じられたものから、沼沢地特有の奇妙な臭いに変わり始めるとアンドレの奴がボソッと呟く。
「蛇のようなモンスターだとも蜥蜴のようなモンスターだとも言われる凶暴な爬虫類型の魔物だそうですよ。俺も見たことはないですし、話をしてくれた冒険者も実物を見たことないって、言ってました」
「爬虫類型ねぇ。仲良くなれそうな気がしないな」
「仲良くなるも何もイーターは動く物全てを喰らおうと襲ってくるそうですよ。おまけに悪食で馬車ごと丸かじりなんて伝説もあったとか」
「何だ、それ……化け物ではないか」
たいてい、都市伝説などは尾鰭がついているものだろう。
本当は小さいものを大きく言ったり、必要以上に怖がらせようと大袈裟に言うものなのだ。
そうに決まっている。
そんな生物が存在する訳ないじゃないか。
いや、でもここはファンタジーな世界だった。
もしかして、本当にいるのだろうか?
そんな疑問を抱きつつ、照り付ける陽光にやや蒸し暑さを感じながら、沼沢地を進んでいく。
キングの話では森を抜けた先にある沼から、ソイツが現れたそうだから、そろそろ気を引き締めないとまずい。
「なあ、あれは蛇なのか? それとも蜥蜴なのか?」
「どっちでもありませんね。アレはドラゴンですよ」
「はぁ……ドラゴンだったのか。ゴブリン・イーターとやらの正体は」
沼沢地を進むこと一時間くらいだろうか。
そこにあったのはゴツゴツとした岩肌の低い山だった。山というには高さが足りない気がする。
元々、鉱山として使用されていた形跡がある人工の洞窟の入り口が確認出来た。
おまけにそこから、今まさに顔を覗かせているのが件のゴブリン・イーターである。
全身がヌメッとしていながらも硬質そうな鱗で覆われており、洞窟から上半身だけを覗かせただけでこちらを圧倒するような大きさをしていた。
その体は蜥蜴というよりも前腕がしっかり発達したワニのようだ。
首は蛇のように長く、その先に付いている頭には捻じれた角が一本、頭頂より生えており、鋭く尖った犬歯が口許に見えた。
こちらを敵意に満ちた視線で睨みつけてくる。
敵意ではなく、食欲からくるものかもしれないが。
「オデ、アイツ倒ス!」
キングがサーベルを手に向かっていこうとするのをそっと制して、その手にあったサーベルを奪った。
サーベルを持つ手がガタガタと震えているのが見えたからだ。
怖いのを我慢して、それでも恐怖に抗い戦おうとするキングの心に感じるものがあったから。
「キング、あなたは後ろに下がっていなさい。私がアイツを倒す。この剣でね!」
私はあまり慣れていないサーベルでどう戦うか、考える。
普段、使っているのは片手での立ち合いに適した軽めの直剣。
だがこのサーベルは片手で扱うにはやや重く、普段の片手の振り方では力を発揮しないだろう。
そこで両手を添え、両手持ちで中段に構える。
「騎士道原則に則り、貴様に引導を渡す!」
「やれやれ、あなたはやっぱり、とんだじゃじゃ馬姫ですね。さ、お前は安心して、後ろで見てな。仇は俺達が取ってやるから」
アンドレはキングにあまり、好意的ではないのかと思っていたがそうじゃ、なかったようだ。
キングの頭を軽くポンポンと叩くと優しく撫でてから、私を魅了して止まない人懐こい笑顔を見せ、キングを戦闘に巻き込まれそうにない後方へとそっと押し出した。
私の隣に立つアンドレはあの凶悪な両手斧を構え、先程の笑顔とは正反対の背筋が寒くなるくらい冷たい表情でゴブリン・イーターを睨んでいた。
◇ ◆ ◇
キングさんを退場させるか、仲間として続投か。
どちらにするか、悩みどころです。
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