第6話 ゴブリンのキングみたいのかな?

 このダンジョンの第一階層、もしやゴブリンしか出ないのではないかと疑ってしまう。

 初めて戦った相手がゴブリンだったが、それから出てくる魔物もゴブリンだけなのだ。

 ゴブリンOnlyなんて、あるのだろうか?


「なあ、アンドレ。ゴブリンしかいないとか、あるのか?」

「ないとは言えませんよ。ダンジョンによってはそのモンスターだけというダンジョンもあるって話です」

「そうなのか……やはり、奥が深いものなのだな。冒険の旅は一日にしてならず、か」

「そんな格言ありましたか?」


 ないと思う。

 細かいことはいいのだ。

 ニュアンスが伝われば、いい。

 だから、脳筋と言われるのかもしれないが。


「アレもゴブリン……なのか?」

「そうだと思いますが。あぁ、アレがもしかしたら、フロアボスという奴ですよ」

「ボスがいるのか?」

「ええ、知らなかったんですね」

「当たり前だ。知らない」


 ダンジョン潜ったことないんだよ。

 知らないって。

 そういうところはファンタジーな世界でもゲームみたいな感覚なんだと気付かされる。

 なるほどね、ボスだから、あのゴブリンはちょっと見た目が偉そうな感じで武器も良くって、着ている防具も立派なんだね。

 頭にも王冠みたいなのが載っているしね。

 ちょっとちゃちに見えるけど。

 もしかして、ゴブリンのキングみたいのかな?

 そうなんだ、知らなかった。

 冒険って、面白いわ。

 まだ、一階層目だけど。


「クケケケ、オロカナ人間メ。オデノ力オモシルガイイ」

「いや、人間じゃないし? 私、エルフだよ」

「メル、その突っ込みは野暮ってもんだ」

「グヌヌヌ、ウルサイウルサイウルサイ」


 ちょっと涙目になったキングはゴブリンの割に生意気な意匠の施されたサーベルをぐるぐる振り回しながら、斬りかかってきた。

 駄々っ子ですか。

 いい年して。


「ねえ、あなた、キングなのよね? そんな腕で本当にキング……」


 避けるまでもないのでそのゆったりと振られてきたサーベルを下段から、軽く振り上げる。

 あっけなく、その手を離れたサーベルは数メートルくらい離れた場所に突き刺さった。

 茶柱じゃないけどいいことあるんじゃない?

 そんな場合じゃなかったっけ、今。

 そのまま、切り捨てても良かったんだけどね。

 あまりに歯ごたえがなさ過ぎて、そんな気すら起きない。


「アババババ」

「ねえ、アンドレ。どうすればいいの、これ」

「そこ、俺に聞かれても……ね?」


 武器を失ったゴブリンは今度は地面に倒れ伏して、ガン泣きし出した。

 何なの、こいつ。

 これ、本当に倒さないと次のフロア行けないの?

 倒すのも気が引けるんだけど、こんなの。


「私、嫌よ。騎士道原則にあるでしょ。騎士は弱い者を虐げてはならない、って」

「俺だって、無抵抗の泣いてる奴の首飛ばす趣味はないですよ」


 げんなりとした表情になっている私。

 アンドレもやれやれという疲れた表情だ。

 これはまるでデパートに買い物に行ったら、子供が『アレ買ってくれなきゃ嫌だ―』と床でじたばた暴れているのと一緒じゃないか。

 しかもこいつは私の子供じゃない。

 ゴブリンだ。

 かわいいか、かわいくないかで言ったら、間違いなくかわいくないやつだ。


「オデ、オマエ気ニイッタ。キングツイテク」

「ん??? あなた、まさか名前がキングなだけとか言わないよね?」

「オデ、キング。キング、ダガキングデナイ」

「「はあああ!?」」


 アンドレと顔を見合わせ、二人でフルフルと顔を振る。

 ありえない。

 名前がキングなだけでキングじゃない。

 いや、百歩譲ってそれはいいとしよう。

 こいつ、ついてくるって言ってない? 幻聴なの? 気のせいなの?


「オ前、オデノ師匠」

「し、師匠……いい響きね。いいわ、それいい」

「あの……メル、えっと本当に連れていく気?」

「師匠だからね」


 根が単純な私は師匠と呼ばれただけでキングと名乗ったゴブリンを連れていくことに決めた。

 アンドレは眉間に皺を寄せて、私を心配そうに説得してきたが頼られると私は弱いのだ。

 悪い気もしないし。

 相手はゴブリンだけどそこは気にしたら、負けだ。

 そう、奴は弟子なのだから。


「よーし、じゃあ気を取り直して、行くよ!」

「オー師匠イク」

「大丈夫か、このパーティー」


 一人不安そうなアンドレを尻目に基本、能天気な私はゴブリンもといキングを連れて、フロアボス探しを再開するのだった。

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