27.砂漠の声
砂漠の戦場に突如として現れた、エルフ型の魔物達。
みるみるうちに数は増え続け、気づけば刺客達の獣型に勝るとも劣らないほどの群れが形成されていた。
エルフ型の魔物はオームギやシキ達へ襲い掛かる事は無く、暴れ回る獣型のみを攻撃対象としてその歪な刃を突き立てる。乱入して来た第三勢力へ理解が追い付かず、オームギは自分なりに彼らが現れた理由を考える。
「エーテルの反応に引かれて来た……? いや、それとも敵の刺客達が現れたから……? でもどうして。混ざったエーテルには赤の国のものだって入っているはず。分からない……何がどうなっているの」
エルフ型の魔物は、過去にこの砂漠で戦ったエルフと人間のエーテル、そして自生していた自然のものが混ざって生まれた存在だ。現にその姿も、エルフの面影も人の面影も感じる不安定な形をしている。
同じく敵の刺客達も予想だにしていない事態の様で、他の地には生息しない独自の魔物の存在へ困惑を隠せないでいた。
「ピーピピッピピ!!」
「『なんだコイツら!!』とハロエリは言っている! ラボン、これはどういう事だ!?」
「エルフの生き残り……いや、残滓とでも呼びましょうか。ほんの僅かに残った彼らのエーテルが、魔物となって甦ったのです。長寿の血とは、それまでして生へとしがみ付けるのですか。実に興味深い……」
「ラボン様ぁ! それで、この方達は殺ってしまって構いませんこと……??」
「ええ、もちろんですとも。必要なのは生きた長寿の血。残滓たる存在など、本物を前にしては廃棄物も同然ですから」
「……っ! ではさっそく……!!」
ミネルバの持つ
獣型の魔物がシキ達を襲い、獣型の魔物をエルフ型が貫き、エルフ型の魔物をミネルバを始めとした刺客達が狩って行く。数の優位は均衡へ振り戻した。しかし個々の戦力では、未だ刺客達の方が有利に見て取れた。
エルフ型の魔物を狩りながらも、彼らはシキやオームギへ攻撃の手を休めない。
一人と二羽の暴風はシキに身動きする隙を与えず、拳の巨大な大男の一撃はエリーゼの作り出す氷をいとも簡単に粉砕する。そして赤黒い給仕服の女も、魔物を狩る流れでそのままオームギへと斬り突きかかって来るのだ。
敗退の確率は減ったが、それでも勝率は未だに僅か。せっかく与えられたチャンスをどうにか出来ないかとシキ達が考え戦っているその時、戦地に異変が起きた。
「ハ……!? 足がッ……!?」
巨大な拳を持つ大男の足が、力強く踏み込もうとした途端砂地へと沈み込む。直後、もつれ倒れた大男はそのまま砂漠へと飲み込まれてしまったのだ。
「飲まれた……?」
目の前で見ていたエリーゼが、突如として消えた敵の行方を探そうとする。右か左か。地面へ潜んだと読んでいたエリーゼの足が、同じようにして砂地へと沈んでいく。
「エリーゼ……ッ!!」
シキは大男が何かエーテルの術を使い、エリーゼを地中へと誘おうとしているのだと思った。だが実際はそうではなかった。その場にいる全ての者が、皆同じように地中へと誘われる。
「ハロエリ、ハルウェル!!」
褐色の男レンリは危険を察知し、相棒達へ逃げろと伝える。しかしレンリの思いに反して、赤と青の鳥達は彼の肩を掴み空中へと引き上げようとした。だが、三つの風をもってしても砂の引力には敵わない。
「あらあら、次は何事ですの?」
「……!? 貴方達の仕業じゃないの!?」
「人聞きの悪い。邪魔が入って最悪の気分ですのに、こんな無粋な事をする訳がないでしょう」
「じゃあ、何が……?」
「おやおや……これは、大地が呼んでいるのでしょうか」
「…………!」
敵も味方も関係無く。魔物達を地上へと残し、戦っていた人々は暗く静かな地中へと飲み込まれていったのであった。
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