25.仲間なんかじゃない
追い込まれるシキ達。赤の国グラナートの刺客は、魔物の大群を操りシキ達を一人一人痛めつけていた。
(
どうしかして反撃を、せめて圧倒的劣勢から少しでも均衡へ持ち込めないか考えるオームギ。しかしそんな彼女の願い虚しく、赤黒い給仕服をまとった刺客の一人、ミネルバは徹底的にオームギを突き刺し斬り叩きつける。
「あらあら、自分の命が狙われているのにお仲間の心配なんて、随分と余裕があるではありませんか。ではもっと本気で襲い掛かっても壊れませんわね……ッ!?」
「別に仲間なんかじゃないわ! 貴方達みたいな邪魔者を退くための共同戦線に過ぎないんだから……!」
そうだ。彼らは仲間などではない。
エルフという種族は滅び、オームギは一人この世界に残された孤独の身。その孤独を受け入れ、全うするためにコアを探し回っている。その目的のため、たまたま出会った彼らを利用しているだけ。
だから彼らの事など、心配などせずとも良いはずなのだ。しかし。それでも。
「おやおや、でしたら、殺してしまっても構いませんね」
「なに……っ!?」
意外な人物の一言に、思わずオームギは驚きの声を漏らす。
戦闘には直接参加せず、馬車の中からひっそりと戦況を覗いていた貴族風の男がぼそりと呟いた。
男の腕の中で、彼に抱えられた長毛の猫がゴロゴロと鳴き声を上げる。直後、馬車の周りを守っていた魔物の大群が、ゆらゆらと魔物から逃げ回り続ける白黒の少女を目掛けて走り抜けた。
「ネオン……ッ!!」
「ネオンさん!?」
ネオンのピンチを見たシキとエリーゼは叫んだ。しかしそれぞれ猛烈な風と巨大な拳の衝撃波に阻まれ、その場を離れる事が出来ない。
「…………!?」
押し寄せる何十匹もの獣型の魔物が、ネオンの四方八方を囲い込みその悪臭を放つ毛皮で包み込む。まともな戦闘手段を持ち合わせていないネオンは、危機を察知出来てもこの現状を受け入れるしかなかった。
シキもエリーゼも、ネオンに手が届かない。ネオンには対処する事が出来ない。そんな中、一心不乱に飛び出したのは白の魔女、オームギであった。
「ダメに決まってるでしょーーーッ!!」
斧槍使いのミネルバから背を向け、魔物に飲み込まれようとするネオンへと飛び込んだ。別に彼女達は仲間なんかじゃない。勝手に消えても構わないし、いつの間にか死んでいたって気にしない。
ではわざわざオームギが飛び込んだのは何のため?
ネオンという存在がコア探しの役に立つから? エルフに関する記憶が刻まれたエーテルが漏れ出すのを恐れたから?
きっとそれもあっただろう。しかし、そんなものはただの言い訳に過ぎなかった。
「
大鎌の刃先を地面に擦り付け、縦に伸びる斬撃を放つ。そして放たれた斬撃が魔物の一匹を真っ二つにする。瞬間、ネオンへ向け襲い掛かっていた魔物の群れが、一斉に弾け飛んだ。
「オームギ、お前……」
外から見ている事しか出来なかったシキが、オームギの突飛な行動を見て思わず彼女の名前を口にする。
結局、彼女にとって忘れられるという選択は、同胞が滅び自身に危険が及ぶのを恐れたからであった。けれど今は違う。記憶だとかエーテルだとか、長寿の血すら関係ない。
「私の料理を知った以上、勝手に死ぬだなんて勘弁してよね」
ただ美味しいと、自分の作った料理を沢山食べてくれた。それだけの事だ。それだけの事が、ずっと人と触れ合う事を避けていたオームギにとって、たまらなく嬉しかったのだ。
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