第三章 砂漠の魔女編
01.選んだ道
「…………暑い!!」
じりじりと照りつける日差しが、明日を目指す旅人達を襲っていた。
黒と金を基調とした、熱をたっぷりと吸収しそうな衣服をまとった男は、広大な砂漠の真ん中で声を張り上げる。
「それを言わないで下さいシキさん……。暑いと言われたら余計暑く感じてしまうではありませんか」
そんな彼の後ろを歩く少女は、宝石の取り付けられた杖を重そうに両手で支える。
自慢の氷の魔術も満足に使えない環境下で、氷の魔術師はうだるような暑さに苦しんでいた。
風すら肌を燻る灼熱と化した大地で、思考まで溶けかけた二人を背に悠々自適に歩みを進める少女が一人。
「…………」
白黒調の服に身を包む少女は、微塵も暑さを感じさせる事なく、淡々と砂漠の横断を目指し影を踏む。
「ネオンさんはいったい……何者なのですか?」
優雅とも自分勝手とも見える歩みを前に、暑さも相まって自分が分からなくなるエリーゼ。共に暑さに苦しむもう一人に問いかけてみるも、彼もまた暑さによって思考回路は熱を帯びていた。
「知らん。私に聞くなエリーゼ……。それより、お前の魔術でこの暑さを何とか出来ないのか」
「何度も試していますがこの通りです……。
エリーゼと呼ばれた少女は手の平に氷の塊を精製する。
しかし、現れた一時の癒しは儚くもすぐに液体へと姿を変え、そのまま気体となり暑さの中に消えて行くのであった。
「一帯が極度に乾燥しているので、水分が十分に得られず精製が不安定になり、強度が無くなってしまうのです。この環境下では、何を精製しても一瞬で溶けてしまいます」
「万事休す、か。一度前の街に戻り、砂漠横断用の装備一式を揃える必要があるか……」
「そもそもとして。無理に近道して砂漠を通るより、数日かけてでも回り道をした方が良かったのでは? 道中立ち寄った街で少し聞き込みをしましたが、この砂漠なんてあるか分からない宝探しを目論む輩しか立ち寄らないと言っていましたよ」
「その噂なら私も聞いていたさ。だからあわよくば。と思ったのだが、そうそう事は上手く行かないものだな」
エリーゼはシキの言葉を聞き、改めて彼らの目的を認識する。
どこにあるかも、誰が持っているかも分からない『エーテルコア』と呼ばれる結晶体。
この世界が出来た時から存在すると言われるエーテルの塊であり、今現在に至るまでの歴史が刻まれた、莫大なエネルギーの具現化。そして、失われたシキの記憶が眠る記憶の断片。それを探してシキとネオンは旅をしているのであった。
噂にすらすがる彼の気持ちを察し、砂漠の横断に賛成しようとするエリーゼ。しかしそんな彼女とは裏腹に、シキは別の案を考えようと行動した。矢先の事であった。
「どのルートを通るか考えるも含め、一度戻る事にしよう。ここで待っていろエリーゼ。涼しい顔で砂漠ルートを強引に決めた奴を呼び止めて来る……って、んん?」
少し話し込んでいるうちに、ネオンの姿が消えていた。いや。
「ばっ……勝手に進む奴があるか! ネオン、それ以上進むなああああ!!」
豆粒ほどのサイズになった白黒少女を追い、シキは乾いた大地を踏み締めるのであった。
「私、この人達と旅する道を選んで良かったのでしょうか……」
苦笑いをしながら、小さくなっていく赤髪の男を見て疑問を浮かべるエリーゼ。
そしてまた一人、気づくのであった。
「……あれ。ここで待っていたら私がはぐれませんか!? ちょちょちょっと待って下さいお二人ともーーー!!」
汗に湿った黒髪を揺らし、氷使いの少女は先行く二人を追いかける。
こうして新たな旅路は、暑さと不安に包まれた足取りから始まるのであった。
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