14.留守番の役目

「ん、んん……ここは……」


 陽の光が黄金色を模し始めた夕暮れ時。

 やたらと重たい頭を持ち上げながら、シキは起き上がった。


 そこは見知らぬ洞穴。いや、昨日入団したばかりの盗賊団『ノース・ウィンド』のアジト内であった。


「おや、やーっと起きたッスかー!? もーどれだけ寝たら気が済むんスか全く……」


 寝起きの頭に落ち着きのない騒がしい声が響く。盗賊仲間の一人である癖っ毛少女ミルカが、頬を膨らませ何やら怒っていた。


 ぼーっと覚めない意識の中辺りを見渡す。そこにはミルカの他に腹を見せてくつろぐチャタローと、そんな彼の腹を入念に撫でてはとろけさせるネオンが一人いるだけであった。


「おいミルカ、他の皆はどうした?」


「どうもこうも作戦は既に決行中ッスよ! ウチとネオンちゃんは酔い潰れたシキさんの介抱をさせられていたんスよ。全く、アンタって男は何にも覚えてないんスねぇ」


「いや……覚えているさ。私は断じて変態野郎ではないと、皆を納得させるのにどれだけの時間を要したか……!!」


「それはもうどうだってイイんスよ!! それよりほら、シキさんも早く準備するッス」


「準備? 何をする準備だ?」


 完全に寝起き直後な男シキは、未だに眠気が抜けないのか置かれている状況がまだ分からず座り呆けたままであった。


「何のって、援軍へ行く決まってるじゃあないッスか!? 日没からがウチらの本番、今から行けばちょうど山場で参戦出来るッス!」


「だが、別に私達がいなくても作戦には問題無いのだろう? だったら無理して参加すれば、かえって指揮系統に狂いが生じるなど邪魔になるのではないか?」


「うぐぅ……。確かに、その可能性も無いとは言い切れないッス……けど!」


 シキに言い包められぐぬぬと悔しがっているミルカに、シキは宴の最中ふと目に入りずっと頭に残っていた別件について問いかけた。


「それに一つ、気になっている事がある。覚え違いでなければ昨夜アネッサが戻って来た時、左の頬をケガしていなかったか?」


「……!! 確かにケガしてたッス。けど、でもあれはぶつけただけだって……」


「ミルカ、お前にはアレが本当にぶつけたアザに見えたか? 隠しているようだったが、私には誰かに殴られた跡のように見えたぞ」


「誰かって誰に!? ウチらの仲間にそんな事をする奴はいないッス! これはウチが絶対に保証するッス!」


 ミルカはふんふんと息を荒くし、仲間を疑うシキに敵意を向けている。しかしシキとて別に、彼女らと敵対しようと思って伝えた訳ではない。


「別に私も仲間を疑っているわけではない。ミルカ、覚えているか? 私が宴の際にひっそりと話していた相手を」


「確かエリーゼとか言ってたッスね……。もしかしてそいつが!?」


「早まるな早まるな。彼女が物理でアネッサに敵うと思えるか?」


「確かに……。じゃあいったい誰が……」


「エリーゼはこうも言っていた。最近妙なエーテルの反応が近くであったと。つまり」


「つまり……?」


「アネッサは、我々の知らない誰かと遭遇したのではないか。私はそう考えている」


 不穏なエーテルに不穏なアザ。関所や盗賊団を理由に人の寄り付かなくなっていた地にて起こる不思議な現象。これらの事象に、シキはどことなく繋がりがあるように感じていた。


(それに、急に盗賊団が力を付けた事。その何者はこの件に関わっている可能性が高いだろう。上手く話を手繰り寄せれば、エーテルコアや他の件についても手がかりを得れるかもしれない)


「アネさんを殴るやつなんて許せないッス! シキさん、言いたい事は伝わったッス!! ウチらでそいつを見つけ出してとっちめてやろうってんスね!!」


「大体そのような感じだ。話が早くて助かる。屋敷の方は団の仲間に任せて、私達はアネッサの邪魔をする第三者を見つけ出すぞ。ネオン、チャタロー。お前達もそれでいいな?」


「フンニャー!!」


「…………」


 こくりと。一人と一匹は仲間を思う男の言葉に賛同した。

 アジトに残った達は仲間に忍び寄る悪意を探し出すため、留守番という役目も忘れ意気揚々と洞穴を後にするのであった。

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