305 諦めスイッチ①

「あのさ、ヨワ。パーティーに行かないか?」

「パーティー?」


 フラーメン大学までの根っこ道を、ふたり手を繋いでゆるゆる歩きながらリンが言った。


「まあ中身はレッドベア家の慰労会なんだけど」


 こんな時に、と湧いた疑問が解消した。コリコの樹が沈む震動でレッドベア病院は建物自体は無事だったものの、多くの薬品がダメになってしまったと聞いた。物質不足の中でレッドベア家の薬師たちは、避難時に負傷した人々や突然の集団生活に体調不良となる人々を支えつづけてきた。

 その献身をねぎらい、また今後の活動意欲を養うためのパーティーなのだ。こんな時だからこそ華やかさも必要だろう。


「キラボシが誘ってくれたんだ。竜鱗病の特効薬を共同で作る薬師たちと顔合わせもしたいからって。それならヨワもいっしょがいいと思ってさ」


 聞けばベンガラやハジキ以外にも数名が関わるという話だった。


「リンとキラボシさんって、仲がいいの?」

「騎士は生傷絶えないからな。自然と。同い年なんだ。それに、前から俺の血に興味あるって話はされてたよ」


 キラボシの名前にどうしても沈んでしまう顔を伏せて、ヨワはうなずく。自分の病気のことなのにリンに任せっ放しで、薬師たちにあいさつもしないというわけにはいかない。

 いつだって心のままに振る舞うことは許されない。深く息を吸ってヨワは笑顔で「楽しみ」とリンに伝えた。




 リンとは大学前で別れた。騎士の任務は半日だけ休みをもらったらしいが、身が空いたならすぐにでも向かったほうがいいと彼は言った。まじめで騎士バカなリンらしい。

 ヨワはせめて昼食を食べてからでも、と思ったがその願いは口にしなかった。ヨワの勝手でリンは休むことになった。わがままなど言える身の上ではない。

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