304 お迎え③
「す、すみません、ススタケさん。俺も少し乱暴でした」
痛みに耐えながら、リンは床に手をついて頭を下げた。ヨワの言葉でも爛々と燃え盛っていたススタケの怒りが、リンの謝罪で徐々に鎮まっていく。
「大学までちゃんと送れよ」
まだ熱の収まりきらぬ目でリンを一瞥したススタケは、大股で広間に戻っていった。
ヨワはリンのそばにひざをつき頭に触れようとした。しかしまだ痛いだろうと思い留まる。胸の前でもどかしい手を握り込んだ。
「ごめん。私のせいで」
「違うんだ。完全に予定違い」
顔を上げたリンがヨワを見てへにゃりと笑う。
「俺がヨワに言いたかったのは、からあげ、うまかったってこと」
たったひとつの笑顔が、ひと晩抱えていたヨワの黒い霧を一瞬で晴らしていく。あまりのまぶしさにヨワは目を細めて額をすり寄せた。
「ヨ、ヨワ」
戸惑うリンの声を聞いてヨワは弾かれるように後ずさった。
「ごめん!」
思わず頬の湿疹を確かめる。最近は鱗の硬化もあまりなく、感触も健康な肌に近かった。しかし他人からすればまだ違和感があるだろう。不快な思いはさせなかったか、ヨワはリンの顔をうかがった。
「帰るか」
竜鱗病を隠すヨワの手を取ってリンは歩き出す。いまだに病の話は自分からなかなか切り出せない。代わりにヨワは何度も不安の眼差しを送った。
するとリンはおかしそうに笑った。
「今さらだって。俺がいきなりヨワの鱗に触ったこと、忘れてないだろ」
「手で触るのとさっきのは、また違うから……」
「家の他にも問題があったか」
ぽつりとこぼれたつぶやきの意味を図りかねて聞き返したが、リンはなんでもない、と教えてくれなかった。
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