298 親バカ全開④

「このまま結婚できると思ったら甘いぞ。俺はまだリンを認めてないからな」


 ヨワの脳裏にコリコの樹をひと晩支えて、魔力が尽きかけた時の光景が映し出された。ススタケは肩に手を置いて必死に「リンは必ず来る」とヨワを励ましていた。


「うそ。とっくにリンのこと認めてるくせに。最後まで彼のこと信じてたもの」

「き、騎士としてだ。伴侶としては認めてない!」


 ススタケの意地っ張りが大理石の廊下に響き渡った時、近くの扉が開いてススドイ大臣が目を押さえながら現れた。


「そこにいるデカブツはススタケか」

「弟をデカブツ呼ばわりはねえだろ」


 ススドイ大臣の声にいつもの静かな覇気はなくふわふわしていた。とても眠そうだ。


「悪いがメガネを知らないか。見当たらん」

「いや、兄貴」


 ススタケは引きつった笑みを浮かべてススドイ大臣の頭を指した。


「その頭でっかちに乗ってるもんはメガネに見えるけど」

「ああ、なんだ。ここにあったのか」


 取り繕うこともせずススドイ大臣はいとも自然に頭からメガネを取り去った。心なしか目が虚ろに見える。もともと生気の薄い顔がさらに青白く映って幽鬼のようだ。

 思わず引いたヨワの体をススタケの手が受けとめた。


「世話になった。ではヨワさん、おやすみ」


 会釈とともに微笑みかけられたが、目元が一切ほころんでいないその表情は狂気だった。


「兄貴こそ寝ろ!」


 ゆらりと手を挙げてススドイ大臣は曲がり角の向こうに消えていった。


「ずいぶんお疲れだったね……」

「あーあ。兄貴のせいで気が削がれちまった。行くぞ。騎士の詰所に案内する」


 最初から案内する気持ちはあったのに、わざとらしく兄のせいにするススタケにヨワはくすくす笑った。

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