297 親バカ全開③

「難しい顔してるな」


 突然声をかけられたと思ったら、大きな手に鼻をつままれてヨワは驚いた。


「ススタケさん!」


 微笑みを湛えていたススタケの顔がとたんにへにゃりと力をなくして、しまったと思う。まだとっさに父と呼べるほど慣れていない。特に本人を前にすると気恥ずかしさがこみ上げてなかなか言えなかった。


「あの……お父、さん」

「パパって呼ぶ約束は?」

「してない!」


 子どものように突き出た唇がススタケの未練を物語っていた。お父さん呼びかパパ呼びかの問答はもう何回もされている。

 ヨワは再びの泥仕合がはじまる前にススタケに道を尋ねた。


「それより騎士の詰所に行きたいんだけど、道を教えてくれないかな」

「それより? 騎士ってリンのとこ? えー。どうしよっかなあ」


 結局ススタケのめんどうくさいボタンを押してしまったことにヨワは内心頭を抱えた。

 この父はシオサイ・ブルーウェーブが実父かもしれないと話が持ち上がった時のように、いやそれ以上にリンに嫉妬していた。


「ヨワと俺の私室にしようと思ってる部屋を案内するついでだったらいいけど」

「えっ、私の私室? というかススタ、お父さんとってじゃあリンは?」

「庭番の出入り口に使ってたあの小屋でいいんじゃね?」

「それ廃墟だから!」


 もう、と腕を組んだヨワはリンがスオウ王から城に住まないかと誘いを受けていたことを思い出した。


「王様に私とリンを城に住まわせろって助言したでしょ」

「違う。ヨワだけだ」


 胸を張る父にヨワはため息をついた。


「だいたい同棲なんてまだ早い!」

「同棲なんてっ」


 否定しようとしたが、ふたりの生活を振り返ってみると限りなくそれに近かった。ただ互いの意識は護衛の延長線上にある。それに今は多くの人が大学に避難し、そこで生活をしている。ふたりきりの空気など皆無だ。

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