299 リンとキラボシ①

 ススタケの導きで二階に上がり、東側の廊下の突き当たりにある扉を潜った。そこは外に繋がっていて、コリコの太い幹に沿ってくねりと曲がったゆるやかな階段が伸びている。冷たい夜風がススタケの髪を揺らした。


「寒いな。さっさと行こう」


 うなずいて、ヨワは早足になったススタケの歩調に合わせた。外階段には光明の灯りがともっていなかった。城と騎士の詰所からうっすらと灯りがこぼれ落ちているのみだ。

 不自由ではないが、ほぼ真ん中まで渡った時吹いてきた風にヨワは思わず手すりを掴んだ。そこに足をかけた。リンの声に耳を貸さずここから飛び下りた。あの時の自分はリンの目にどう映っただろうと思う。実際は浮遊の魔法を使って下りただけ。しかし死のうと思っていたのは確かだ。

 リンはどんな顔をしていたんだろう。


「ごめんね。私、弱かった」


 ススタケに呼ばれてヨワは一気に外階段を渡りきった。

 詰所の玄関には当直の騎士がふたり立っていた。ススタケはさすが顔を見せただけで恭しく通される。連れのヨワもなにも聞かれなかった。

 建物の中は思っていたよりも静まり返っていた。夜間は当直の部隊を残してみんな家に帰るようだ。照明は足元を照らす最小限に留められ、ヨワが歩いてきた廊下には灯りがついた部屋はひとつもなかった。

 壁や天井には染みや剣でつけたような傷があちこちに見られた。掲示板には“整理整頓”と“がれき撤去作業分担表”の張り紙。割れた窓ガラスをはめ込み直した不器用な痕。ここで過ごす人たちの様子が垣間見える度に、ヨワの心はわくわくと踊った。リンはいつもここで騎士の務めをしているのかと思うとわけもなくうれしくなる。

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