296 親バカ全開②
「なにかあったのかな」
騎士につきまとう危険が徐々にヨワの心まで脅かしていた。夜が深まるにつれてのどを塞いで、食事も手をつけようという気にならなかった。
そこへ研究室の扉がノックされ、リンの兄クチバが顔を出した。
「ヨワー。リンから伝言。医務室寄るから遅くなる。先に寝てろ――っておい!」
医務室と聞いてヨワは居ても立ってもいられなくなった。クチバを押し退けて走り出す。
がれきの撤去作業で怪我をしたのか。疲れが出て倒れたのか。悪い予感が脳裏を飛び交うごとにまだ幾分も走っていない心臓が大きく脈打った。
光明の魔法使いが点々と緑の光を灯していった根っこ道を駆け抜けて、コリコの樹上に鎮座する王城を目指す。崩壊で街と城を繋ぐリフトは動かなくなってしまった。粗末とも言える縄はしごの前で警護している騎士の頭上をヨワは魔法で飛び越えた。
直接門前に降り立ったヨワに門番は槍を構えかけたが、「庭番のヨワです」と告げると手を下げた。
ジャノメ・ヴィオレフロッグの件があってから、城内は伝播石での魔法の監視が義務づけられるようになった。伝播石で作られたブレスレットを身につけた訪問者は、魔法の使用を緊急時以外認められない。
それらの注意事項を受けてヨワは中へ通された。崩壊事件以来ひかえめな照明に変わった長い廊下を急いでいたが、ヨワはハタと気づいて足を止めた。
「どうしよう。医務室の場所がわからない」
そもそもリンが向かったというのなら王城の医務室ではなく、隣接する騎士の詰所のほうではないか。
そこへ行くには外階段を通ればいいのだが、城のどこから繋がっているかヨワは知らない。魔法の監視をされていては前回のようにバルコニーから飛び移るなんて離れ業は使えなかった。
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