295 親バカ全開①

「にゃーん」


 ソゾロの声がする。カリカリと引っかく音が聞こえる扉を見ると、闇夜に浮かぶ銀の目が振り向いた。

 扉がひとりでに開いた。見るとヨワの人さし指がかけ布団からはみ出して扉を指していた。ヨワは度々寝ながら魔法を使う。こちらは悪い癖だ。


「ユンデ」


 扉の隙間から出ていこうとするネコをリンはとっさにそう呼び止めていた。

 ネコの足がぴたりと止まった。そのことにリンは驚いた。


「お前、本当はユンデなのか?」

「にゃー」


 ネコは器用に扉を閉めて去っていった。




 ヨワはからあげを見つめてしかめ面をしていた。このからあげはこっそり作っているところをユカシイに見つかって、ひとつを献上することで許してもらえたものだ。

 炊き出しの献立は野菜炒めだった。みんなが協力して助け合わなくてはならない時に、ひとり特別扱いするのはいけないことと知りながらヨワはどうしてもリンにからあげを食べさせたかった。それがハンバーグの次にリンの好物だとオシャマから聞いたからだ。

 だがリンは来ない。日没を過ぎてだいたい一時間以内にはいつも帰ってくる。しかし今日に限って三時間経っても研究室前の廊下を歩くリンの足音は聞こえてこない。


「どうしたのかな」


 ヨワは何度目か知れないため息をついた。

 騎士は一般的な職業のように定時や決まった休暇制度などない。すべては今取り組んでいる任務の進行具合によって決まる。

 リンはよくよくヨワに言い聞かせていた。騎士の時間は不規則だから、夕食も就寝も自分を待たなくていい、と。頭ではわかっている。でも、出会ってからこれまでずっといっしょに過ごしてきたことを思うと寂しさが拭えない。

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