294 ふたりの家⑤

「ほんと、ヨワの魔力ってどうなってるんだ」


 彼女が魔法を使う時、揺れ動く干し草色の髪を軽くすいた。


「なんかクリスタル使ってから調子いいんだよね」


 ヨワのまぶたが半分下りてきて、声も甘くあやふやになる。寝心地のいい姿勢を探してころりと近づいてきた体にリンは腕を回した。

 頬に垂れた髪の隙間から鱗が覗く。自分の血に残った魔力でヨワを病から永遠に解き放てると思ったそれはぬか喜びだった。これまで処方されてきたぬり薬と同じで、リンの血も一時的な効果だった。

 数日経てば湿疹はまたヨワの肌を侵す。汗をかけばかゆみを発し、ストレスや寝ている間に掻き壊させる。それでもヨワは以前よりかゆみが減ったと喜んだ。ストレスも自分では感じていないとリンに笑いかける。

 確かに従来のぬり薬よりはいいようだ。薬師のベンガラも言っていた。だがヨワはいまだに普段着から大学ローブを外せない。避難者の中に歳の近い女性がひざ丈のスカートをはいている姿を見つけてうつむくこともあった。


「なあヨワ。城つきの治癒魔法使いが、俺の血を使った竜鱗病の特効薬を作ってくれるって言ったんだ。ベンガラさんとハジキさんの協力も仰いで」

「城つき、の……?」


 今にもまどろみに落ちそうな緑の目がとろりとリンを映した。


「そう。キラボシ・レッドベアっていうんだ。湿布薬の天才って言われてる」

「うん……」

「ヨワ?」

「ありがとう……リン。でも眠、くて……」


 リンががれきと格闘していたように、ヨワもたくさんの魚を相手にがんばっていたと知り、リンは微笑んだ。


「でもその前に標本を片付けないと、隕石になって落ちてくるぞ」


 ぐずる声をもらしながらもヨワは蛍石とかんらん石の惑星を地上に下ろした。夢とうつつをさまよっている時のヨワは、子どものように不機嫌だ。それを最近知った。

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