293 ふたりの家④
機嫌がいい日には鉱物の標本を使った天体観測もできる。蛍石の周りをかんらん石の衛星が浮遊する星空を見上げて、リンは欠伸をした。
「大学も俺の実家もプライベートないから、いっそ城に住んだらどうだって言われた」
今、各区の四大学は家が半壊または全壊した国民の避難所として開放されている。炊き出しや物質の配布もおこなわれ、これ以上なくにぎやかだ。スオウ王の計らいでヨワの権利が主張されている資料置き場にも、ちょっと耳をすませば人の気配がさわさわと感じられた。
「城だってプライベートないと思うけど」
「俺も思った」
目を合わせてリンはヨワとくすくす笑った。
「それに、今は国まるごと引っ越し大作戦で忙しいでしょ?」
国が崩落しかけた理由を国民に説明する上で、巨樹コリコの老衰を告げることは避けて通れない事実だった。不安と悲しみを湛える国民を前にその事実を語ったのはススタケである。ススタケは自らの身分と庭番の存在を明らかにした。そしてその場で全国民に問いかけた。
――もう寄りかかるのはやめないか。
――家を捨てる勇気を出してくれ。
それから後日、おこなわれた国民投票によりコリコ国の城下町は野外区へ引っ越しを決意。身分、役職の例外なくコリコの樹上に住まうことを禁じた。
「まあな。とにかく城を移さないことには、国民の引っ越しがはじまらない。その計画で父さんは連日遅くまで会議だ」
オシャマさんも心配してた、と言うヨワの顔をリンはじっと見つめた。
「やっぱり城の引っ越しはホワイトピジョンがやるのか?」
「うん。私ひとりでもできると思うけど、ススタ――お父さんがみんなでやりなさいって」
健気にススタケを父と呼ぶ努力をしているヨワにリンは目を細めた。
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