292 ふたりの家③

「確認はしたよ。ソゾロですかって聞いたら『にゃー』って返事するし、ユンデじゃないよねって聞いたら『にゃー』って言ったよ」


 シュールなやり取りに黙っていると「そもそも確認する術がないよ」と言われ、リンはとりあえずソゾロの「にゃー」を信じることにした。


「今日もお疲れさま! お腹すいたでしょ。今日はね、クロシオさんがたくさん魚を持ってきてくれたから、白身魚のバター焼きだよ」


 ヨワが示した机の一角にはバター香る白身魚と、マッシュしたポテト、ちょっと具の少ないコンソメスープが並んでいた。


「へえ。もしかしてヨワもさばいたのか?」

「そう。オシャマさんに教わってね」


 ここのところヨワはオシャマから料理を教わることを一番の楽しみにしていた。今日はこんな料理を教わった、と食卓でうれしそうに話すヨワを見ているとリンは心をくすぐられる思いに駆られた。まるで幼少期のアルバムを見られているような気恥ずかしさもある。だが、ヨワが誰に振る舞うためにリンの実家の味を覚えているのかを思うと、上がった口角を押さえられない。

 湧き上がる衝動のままにリンはヨワを後ろから抱き締めた。


「リン?」

「んー?」


 腰に回した腕にヨワの手がひかえめに触れた。


「このまま……」


 リンの願いをそのまま口にするヨワを、もっと強く締めつけた。


「リン。なにかあったの。もしかして王様からまたなにか言われた?」


 夕食を済ませ、寝支度を整えて、真っ暗な狭い資料置き場でヨワとふたり、並んでまどろみに向かうわずかな時間がリンは好きだった。せっかくシャワーで温まった体が一月の空気で冷めないように――そんな言い訳をして――ふたりで身を寄せ合う。

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