284 生きたい①

 叔父と叔母はぐったりとして動かない。ここからでは息をしているのかさえわからなかった。ふたりの汗を拭いたり背中をさすって励ましていた祖母たちは壁際でひっそりと神に祈りを捧げている。両隣のミギリとシトネは辛うじて動く胸部が見受けられるが、ふたりから感じられる魔力は風前の灯火だった。


「ヨワ、ほら。水を飲め」


 長時間の魔法行使で脱水症状を引き起こしかけている浮遊の魔法使いたちに、ススタケはひと晩中水を運びつづけてくれた。

 器をヨワの口元へ近づけようとした時、床が大きく揺れてススタケはふらついた。コリコの樹がまた沈んだ。もう支えるほどの魔力はヨワにも残っていない。巨樹はコリコの街とともに湖へ沈みはじめている。


「ススタケ、さん……にげて……」

「なに言ってんだ! 俺はお前を置いて逃げたりしない!」


 ヨワは力なく首を振る。


「あなたには、王族の、使命が……」

「そんなものどうだっていい! お前より大切なものなんかあるか!」


 ススタケはそっとヨワの肩を掴んだ。その手はかすかに震えていた。


「もうすぐだ! きっともうすぐリンたちが来る! 頼む、耐えてくれヨワ……! お前の誕生日を全部祝いたいんだ」

「ススタケさん……頼みがある……」


 低く潰れてしまいそうな声はミギリのものだった。まぶたを開ける力さえ惜しんで義父は声を振り絞った。


「いざと、なったら、ヨワを……」


 だがミギリは最後まで言えず耐えるように下唇を噛んだ。


「ヨワを……お願いします……」


 そこへミギリの言葉をつなげたのはシトネだった。母の頬には涙が流れていた。それが娘と死別する覚悟の涙だと理解したヨワの心は傷ついた。

 シトネを恨んでいた。ミギリを憎んでいた。それでも認めて欲しいと願っている自分に何度も失望した。何度も、何度も、諦めろと自分に言い聞かせて生きてきた。

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