283 追っ手④
「ユカシイ、クリスタルを渡してくれ。俺が持っていく。スサビ、ロハ先生とダゲンさんを任せてもいいよな」
言いながらリンは肩に刺さった矢に手をかけた。ユカシイとスサビが慌てて止めようとしたがひと思いに引き抜いた。
「だ、だいじょうぶなの。そんなことして」
麻袋をユカシイから受け取り、リンは「ああ」と悪い笑みを浮かべた。負傷した肩を動かしてみても痛みは感じない。それどころか走りつづけた疲労も抜けて体が軽かった。
「いい感じに血が効いてきた」
新たな追っ手が現れても楽しんで応戦できる気分だ。
「なんかキャラ違くない?」ユカシイはスサビに耳打ちした。
「あー。完全にキマっちゃってるね」
ぶつぶつ言うふたりを残してリンは走り出した。クリスタルをコリコの樹に届ける、騎士としての使命と理性は頭の片隅にきちんと残っていたが、それよりもヨワに早く会いたい気持ちが大きくふくれ上がっていた。
「おーい! リーン! 来てやったぞー!」
三合目付近まで下りてきた時クチバが馬を二頭つれて現れた。さすが、とリンは口角をつり上げる。素直ではないが目上にも目下にも細やかな気配りができるクチバだ。
馬に飛び乗りながらリンは山頂付近でシジマとエンジが盗賊団と戦っていること、中腹でスサビがユカシイとともにロハ先生とダゲンを連れて下山中であることを伝えた。
「了解。お前はなにも気にせず走れ! あとは俺らに任せろ」
なにも心配はしていない。兄弟たちを信じている。クチバと拳を突き合わせたリンは馬の腹を蹴って平野へ駆け出した。
夜明けまではクリスタルの間に響いていた荒い呼吸音も途絶えた。ヨワは何時間ぶりか目を開けて周囲を見回した。
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