282 追っ手③
威嚇の声を上げたりナイフを振り回したりしてクマに気を取られている盗賊を横目に、リンは後ろの仲間に逃げるぞと声をかけようとした。だが振り返ったリンの脇をユカシイが通り抜けていった。
「おい!」
慌てて呼びかけリンは気がついた。ユカシイの抱えている麻袋が青く光っている。クリスタルが彼女の魔力に反応しているのだ。
「ここで引くなら見逃してあげるわよ」
ユカシイは果敢にも盗賊たちに言い放った。
「あ? てめえは引っ込んでろよ」
クマと騎士に挟まれて盗賊のひとりは苛立ちをあらわに突っぱねた。
「そう。なら仕方ないわよね」
クリスタルの輝きがいっそう強くなる。するとクマが吠え、ついに射手へ飛びかかった。魅了の魔法だ。クマは偶然ではなくユカシイの魔法に引き寄せられ現れた。
この機をリンは見逃さなかった。
スサビから傷を負った盗賊をひと振りで斬り伏せ、もうひとりナイフを持った男へ一気に踏み込んだ。仲間の断末魔に振り返ったところでリンの刃はすでに届いていた。
残った射手はクマが振り下ろした一撃に沈んだ。
「もういいわ。ありがとう」
ユカシイがそう言うとクマは静かに森へ帰っていった。力が抜け、その場に座り込んだユカシイの元にスサビが駆け寄った。
「あたし、あんな大きな動物に魔法が効いたのははじめてよ!」
「聞いてユカシイ! 僕、父さんに騎士じゃなくて美容師になりたいって言うんだ! 決めたんだ!」
「本当!? すごい。すごいよスサビ! だいじょうぶよ、今のあたしならシジマさんだって操れるわ!」
なにがなにやら。興奮した様子で手を取り合ってはしゃぐふたりの会話はリンにはさっぱりだ。美容師うんぬんよりも優先されるべきことが今は山積みであることは確かだ。
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