281 追っ手②
「リン兄!」
空耳か。ユカシイの声に混じってスサビの声が聞こえた。リンは襲ってくる衝撃に備えて本能で身を強張らせていた。しかし、ひらり、視界の隅から光が舞い込んできて今にもリンを切り裂かんとしていた盗賊の肌に無数の赤い線を散らせた。
「ぐああっ。な、なんだ!」
あれはスサビの小刀だ。弟は小振りの魔剣を際限なく召喚し、自在に操れる才を持っている。ひとつひとつの威力は低いものの、使い方を極めれば最強の騎士になるだろうとシジマが期待していた。
「リン兄だいじょうぶ!?」
駆け寄ってきたスサビに助け起こされるもリンはまだ自分が都合のいい幻を見ている心地だった。スサビが父の言いつけを破ったことは一度もない。賢く状況を見極めて、けしてこんな無茶をする弟ではなかった。
「驚いてるみたいだけど説明してる場合じゃないよ!」
スサビに言われてハッと我に返り、リンは片手で剣を構え盗賊と対峙した。矢を受けたのが利き腕でなかったことは幸いだ。まだ戦える。
意気よくスサビはリンの横で盗賊とにらみ合っているが戦闘に慣れていない弟の頭は混乱寸前だろう。ここは自分がリードし、先陣を切る。その意思を示すためリンは一歩前に出た。
「ひえええっ!」
ところが盗賊側から突如悲鳴が上がった。後方の茂みに身を潜めていた射手が登山道に這いずり出てきた。「なにやってんだ!」と仲間のひとりが怒鳴りつける。
「あ、ああ、あれ、あれ……」
男がしきりに森を指すほうへ、リンは盗賊たちを警戒しながらチラと視線を移した。クマだ。岩のように黒いクマが腰を抜かしている射手に狙いすましている。
次から次へと厄介ごとが舞い込む。リンは内心で舌打ちしたが、同時にチャンスだと思った。盗賊たちがクマににらまれている間に逃げ出せる。
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