280 追っ手①

「二匹抜けたぞ!」


 叫び声がしてハッと視線を走らせると射手のひとりがこちらを指していた。


「追え! ひとりも生きて帰すな!」


 カブトの怒号とともにナイフをもった男ふたりと射手のひとりがリンとロハ先生に向かってきた。シジマがすばやく反応したが、斧を振りかざしたカブトが躍り出て足止めした。

 リンは走りにくそうなロハ先生からクリスタルの入った袋を受け取り、先生に前を行かせた。ロハ先生の体力が心配だが今は逃げるしかない。

 坂はリンとロハ先生の背中を押してくれたが、それは盗賊も同じだった。なんとか山の中腹まで下りてきたものの追いかけてくる怒声は確実に近づいてきている。リンは片手にクリスタルを抱え、もう片手にロハ先生の手首を握り締めていた。もはや先生の体力は尽きかけている。リンに引っ張られ坂道に押され惰性で前に進んでいるようなものだった。


「先生、がんばってくれ……!」


 ふもとにはクチバがいる。そこまで逃げ切れば助かる。虫の知らせでも感じて兄が登ってきてはいないかと目を凝らした時、リンはダゲンを支えて下山するユカシイを見た。


「逃げろユカシイ! 走れえ!」


 ユカシイとダゲンは驚いて立ち止まった。そうじゃない! 苛立ちに呼吸を忘れ息苦しさに目を閉じた瞬間だった。ヒュッと空を切る音が聞こえ肩に衝撃が走る。矢に射たれた。一拍遅れてリンは焼けるような痛みを感じながらロハ先生ともども地面に倒れた。


「リン!」


 ユカシイの悲鳴が聞こえたほうへリンは無我夢中で麻袋を投げた。


「それを持って逃げろ!」


 身をひねってロハ先生の体を足で転がして遠ざけ振り向いた時には、盗賊のナイフが目の前に迫っていた。


「ダメー!」

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