279 クリスタル奪還!④
「ああやっぱりそうだ! くすんだ表面! 盗賊たちにはこの価値がわからない!」
くぼみにつまずきながら駆け寄ってきたロハ先生が、最後に残ったクリスタルの実に抱きつくようにひざを折り叫んだ。数ある実の中でクリスタルの樹が魔力を集めていたのがこのくすんだ個体だった。美しくない見た目から盗賊は粗悪だと思い込み捨て置いたのだろう。だがこれこそ魔力を増大させる魔石となる唯一だ。
ヨワ、まるでお前みたいだな。
「青の濃さがコリコのクリスタルと遜色ない。これならいけるよリン。この実はすでに熟している!」
「先生、袋を! 急いで下山します!」
実の周りの数ヶ所に剣を突き立て押し込むとクリスタルはくぼみから外れた。麻袋に入れて縄で口をきつく縛り、ロハ先生がしっかりと抱えたのを確認するや否やリンは出口に向かって走り出した。
崖っぷちの道を慎重に通り過ぎると戦いの喧騒が響いてきた。茂みの向こうでシジマとエンジが盗賊を相手に魔剣を奮っている。けして賊に負けるような父と兄ではないが、十人以上いる数に苦戦しているようだった。カブトの指示が絶え間なく飛び交う。ナイフを持った前衛と弓で狙う射手の連携がうまい。
誰か射手の体勢を崩すひとりさえいればシジマとエンジは攻めに出られる。だがクリスタルを待つ浮遊の魔法使いたちにはもう一刻の猶予もない。リンは痛いほど剣を握り締めた。その時、
「どうした! こっちは手加減してるのにその程度か! 数だけいても仕方ないな!」
シジマがひと際大きな声を張り上げた。
リンの胸にもう迷いはなかった。ふもとをまっすぐ見据え、地面を力強く蹴って転がるように駆け下る。「信じてる」そう言って震える手でリンの頬に触れたヨワのことだけを想った。
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