274 花が運んだ想い④
「私たちはこんなふうにあなたを苦しめつづけてきたのね」
ふいにヨワの髪をすいた母がつぶやいた。顔を上げるとシトネの目には涙がにじんでいた。
「生まれた時から、たくさんのものを背負わせてしまった」
「ごめんね、ヨワちゃん。私が赤ちゃんを元気に産んであげていれば……」
うつむいた伯母のひざ元にきらりきらりと涙のしずくが落ちていった。その彼女の背をやさしくなでてなだめる伯父も、ヨワに向けて「すまない」と口にする。
「俺も、妻を病気で失って立ち直れなかった。自分のことで精一杯で、ミギリが感じてる責任の重さに気づいてやれなかった」
ヨワは表情ひとつ変えず伯父の話を聞く義父の横顔を見た。ミギリもどうしようもない不安を抱えているなんて想像したこともなかった。ホワイトピジョンの名に思い上がることはあれど、重荷に感じたことなど一度たりともないんだと決めつけていた。
瞬きとともにうつむいたミギリの顔に憂いの影が降りた。
「だがそれでヨワに当たるべきではなかった。もちろんシトネにも」
ミギリの灰色の目がはじめてヨワを映し、義父はぎこちなく笑った。
「ヨワは強いな。こんなことになってようやく認められたよ。私の弱さを」
「いえ、別に……」
思いがけない言葉の数々に戸惑いと照れを感じて、ヨワはそう返すのがやっとだった。
「罰が当たったのやもしれないね」
ぐったりと壁に寄りかかった母方の祖母がつぶやいた。
「私たちは王から授かった名に天道まで飛べると思い上がっていた。世継ぎとなるべき子らに次々と降りかかった不幸はその報いだろう」
「でも、今からでも遅くはない。最後の希望はここに」
父方の祖母はそう言ってしわが刻まれた細い目をヨワに向けた。伯父と伯母もヨワを見てうなずいた。シトネとミギリからも熱い視線を感じて、どこを見たらいいのかわからずヨワはうつむいた。
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