275 花が運んだ想い⑤

「数少なくなったホワイトピジョンの子らよ。これからは手を取り合い、ヨワを守ろう」


 祖母の声とともに床についたヨワの手にシトネとミギリの手が重ねられ、ぎゅっと握り締めた。義父の指は親指の鱗に触れていた。その硬い感触がわからないはずがない。しかしミギリは指を避けることもしなかった。だんだんと手に伝わってくる温もりがミギリの心そのもののように感じてヨワは涙をにじませた。

 そこへ背中にそっと置かれた手があった。なにも言わなくてもススタケだとわかった。


「ススタケさん。私、今日この日のために生まれてきたのかな」

「そんなバカなことあるか」


 少し芝居がかったススタケの声がヨワの言葉を冗談に変えた。それでいいのだ。いや、それこそが正解なんだと確信を得てヨワはくすくす笑った。

 夜はゆっくりと、しかし着実に更けていく。




「行こう!」


 東の地平線に太陽が顔を出すや否やリンは力強く言った。今度こそシジマは止めなかった。リンを先頭にエンジ、ロハ先生、シジマとつづいて一列になり、クリスタルの洞窟に唯一繋がる崖っぷちの道を進んでいく。リンはいつでも盗賊と鉢合わせしてもいいように片手を束にかけていた。

 夜中、二人一組となって交代で道を見張っていたが、洞窟からやってくる人影はひとつもなかった。カブト盗賊団は今も洞窟にいる可能性が高い。なにせクリスタルの次の標的はコリコ国だ。料理番つきの拠点は手放したわけではない。見張りをふたり置いていたし、探索からコリコ国の地図や商人の服が見つかった。やつらがこの地から離れるつもりはまだまだないという証拠だ。

 そろそろ洞窟の入り口に着くかと思った時、風の切れ間から人の話し声が流れてきた。リンは後続に止まるよう合図を出し、剣を抜きながらひとりで慎重に距離を詰めた。

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