273 花が運んだ想い③

「あー。ススドイ兄貴が言うには、こらこら、いっぺんに喋るなって! ああ、そうか。橋は壊れてもコリコの根はそれくらいで切れたりしない、だとよ」


 自由奔放なコリコの言葉に苦戦しながらもススタケが伝えてくれたことにヨワは希望を見出した。本当のことを言うと祖母ふたり分の魔力をまかなう自信はなかったのだ。

 七人の浮遊の魔法使いは息を合わせてゆっくりとコリコの樹を降ろしていった。湖面に触れる合図はススタケがコリコの声を読み取って出してくれた。水の浮力は絶大な効果を発揮した。軽くなった安堵感からみんなそろってため息をついた。


「本当にいいんだな?」


 伯父が汗を浮かべた顔でヨワに問いかけた。ヨワはしかとうなずき、コリコの声に導かれながら西方へ魔力を伸ばした。

 ふたりの祖母の手が震えながら輪から離れていく。輪が途切れたせつな、ヨワは見えない手に後頭部を押さえつけられ息ができない苦しさにうめいた。伯父と伯母がなんとか互いの手を結び直したことで負荷は減ったが、完全に取り除かれたわけではなかった。


「ごめ、ん。肩に、手を、おいてくれる……?」


 ヨワは手を握っている余力もなかった。ミギリとシトネから手を離されると床に両手をついた。そうでもしなければ自分の体を支えることも難しかった。


「ヨ、ヨワ。だいじょうぶか?」


 あわてふためくススタケの声に応えようと目を開けた時、ヨワは手の甲の親指のつけ根にある竜鱗病の湿疹が広がっているのを見た。きっとストレスによる悪化だ。認識したとたんかゆみを発する患部をヨワは手で隠した。


「だい、じょうぶ。だいじょうぶだよ」


 それはススタケへの返事か、自分に言い聞かせる言葉か、ヨワにもわからなかった。

 遠くから大きな物音が響いた。おそらく橋が崩壊する音だ。

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