272 花が運んだ想い②

「また助けてくれる?」


 ビンを覗き込み、そう話しかけた時だった。


『俺が必ず守るから』


 頭の中に声が響いた。コリコの幼い子どものような声ではなかった。それは紛れもなくリンの声だ。ヨワはようやくこの花を枕元に置いていった人物を知った。コリコの一部だった花がリンの思いを受け取り、氷の魔法が花ごと封じ込めていたのだ。


「リン……!」


 ヨワは小ビンを握り締めて額をすり寄せた。


「お母さん!?」


 突然、伯母の叫び声がしたと思うや否やコリコの樹が再び揺れはじめた。繋がっているふたりの祖母の魔力が弱まっている。樹は西区のほうへ傾こうとしていた。

 ――リン。あなたが私を信じてくれるなら、私は私を信じられる。


「おばあ様はふたりとも輪から抜けてください。私が補います」

「そんなの無茶だ」


 ミギリが吐き捨てるように言った。表情に疲労をあまり出していないがヨワと繋いだ義父の手は汗で湿り、長時間の魔法行使で震えていた。


「私はダブルロードだから。それにコリコの樹が支えるべき場所を教えてくれる」


 伯父と伯母の目がヨワとススタケに注がれた。だが今は構っている暇はない。コリコの花が入った小ビンを前に置いてシトネと手を繋ぎ直し、祖母が辛うじて支える西区のほうまで魔力を広げようとした時だった。


「待て、待てヨワ。それなら水の浮力を利用しよう」とススタケが止めた。

「水の浮力?」ヨワは背後にいるススタケを振り返った。

「そうだ。湖に少しだけコリコの樹を沈ませるんだよ」

「でもそんなことしたら避難している人たちが……。それに橋も壊れてしまうかも」

「避難は完了した。さっきスオウ兄貴がそう伝えてきた。ちょっと待ってろ」


 そう言ってススタケは床に手をついてコリコの声に意識を集中した。

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