263 スサビの反抗期②

「はじめはただの反抗期でした。うちはそろいもそろってみんな騎士だからつまんなかったんだ。ただ漠然と違うことをしたかったんです。痛いのとかいやだし」


 スサビはわざと長い前髪に表情を隠した。


「だけど僕は踏み跡のない道の歩き方を知らなかったんです。生まれてからずっと父や兄さんたちのまねをしてきた。先に障害や失敗を見つけてくれるから、僕はただ同じわだちを踏まないようにするだけでよかったんです。僕は自分を器用だと誤解してた。本当はひとりで歩くこともままならないどうしようもない人間なのに……」

「結局やる気がないだけだろう」


 そうつぶやいたのはミギリだった。スサビの体がびくりと揺れてますます拳に力が入り震えていた。スサビはシジマ家の末っ子として生まれ最後尾をずっと歩いてきた。だから人から見て学ぶ能力に優れた。見る目が長けているからこそ時に様々なものまで見えてしまう。普通なら感知できないほど遠くにある不安や心配ごとに足をすくわれる。


「スサビは、自分のやりたいこと、もう見えているんだね」

「それは……」としばし迷いながらスサビはうなずいた。

「だったら、踏み出すしかないよ。スサビがやらなきゃなにも、はじまらないよ。歩くのが怖いなら、這っていってもいいじゃない」

「這っていく……?」

「うん。どんなに偉い人だって、強い人だって、はいはいからはじまったんだよ。最初から二本足で歩ける人なんて、いないんだ」


 あまり長く話すと息が上がりそうだ。


「ねえスサビ。私からお願い。ユカシイを助けてあげて。あの子、あなたがいるといつもより、がんばれるみたい」

「だけどそれは父さんが、許さないかも」

「いいの」ヨワは息を大きく吸ってスサビに笑いかけた。「だってスサビは今反抗期でしょ?」

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