264 スサビの反抗期③

 シトネとミギリ、ススタケから物言いたげな視線を受けたがヨワは笑顔で流した。

 スサビは唐突にハーフアップにしていた髪をほどいてひとつにまとめ上げ、前髪を二本のヘアピンでしっかり留めた。父のおだやかな目元、母のしっかりとした眉を受け継いだ顔がはっきりと見える。そしてにかっとヨワに笑いかけた表情は不思議なことにどこかリンに似ていた。


「ヨワさん。僕行ってきます!」


 はしごに飛びついてあっという間に見えなくなったスサビをヨワは「いってらっしゃい」と送り出した。

 額に汗がにじむ。少し喋り過ぎた。ヨワは一定の魔力を保ったまま目を閉じてしばし肩の力を抜くことにした。

 円の位置通りその方角にある根っこをそれぞれ支えているが、ヨワの対岸――西区方面を支える祖母たちの力が弱い。もし祖母たちの力尽きることがあれば補えるのはきっとダブルロードであるヨワだ。そのためにもまだ力を温存したい。

 ため息をついたヨワの背中にススタケが自分の背中をぴたりとくっつけた。寄りかかっていい、と言われヨワはそろそろと体重をかけた。力強くて、大きくて、温かい。ふいに浮かんできた涙を拭う手はあいておらず、ヨワは肩で乱暴に目元をこすった。




 馬に跨がり野外区の平野を駆けるリンの左手は、馬の尻を叩き過ぎてじんじんと熱を発していた。それでもリンはまたひとつぴしゃりと馬を打って急き立てる。道案内役のユカシイを後ろに乗せたエンジの馬をいつの間にか追い越していたが構わなかった。目指すカカペト山は目の前にそびえ立っている。あまりに大き過ぎて距離感がまひし、なかなかふもとに行き着かないことがリンを苛立たせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る