262 スサビの反抗期①

 ズブロクの声は揺れて叫んだ拍子に裏返った。こんなススタケははじめて見る。誰かの意見に異を唱えても次には肩を組んで笑いかけていた。今ススタケはマンジとズブロクから手の届かない位置に立ち動こうとしない。ひくりとも笑わない。ただただ、おだやかな空気を漂わせている。

 ふと、振り向いたススタケの緑の目がヨワを映した。


「俺の家族はここにいるんだ。俺は俺のわがままで最後まで家族といるって決めた。だからお前らも大切な人のところに行け」


 マンジとズブロクはしばしススタケとにらみ合った。しかしススタケのまとう意思は変わらない。マンジは黙って立ち上がりひとつ頭を下げた。ズブロクのことをひじで小突いてうながす。ズブロクは深く長くススタケに向かって頭を下げると、マンジを追いかけてはしごを登っていった。


「ススタケさんの言い分からすると、僕はカカペト山に向かうべきですね」


 追い出される前にスサビはそう先手を打ってきた。これにはススタケも頭を掻いた。


「あー、お袋さんは家にいるんじゃないのか」

「母さんだって魔剣の使い手ですし、騎士の妻ですよ。今頃率先して近隣住民の避難誘導をしてます」

「でもお前はシジマに言い返さなかっただろ」


 スサビの目が揺れた。


「いや、言い返せなかった。それは図星だからだ」


 若い魔剣士は拳を握ってうつむいた。ヨワの目にはスサビが自らわだかまりに囚われているように見えた。そこから抜け出す力を備えていながら動かない彼が不思議だった。


「スサビの迷いを、話して」

「えっ。でも……」

「なにかお話ししてるほうが、気が紛れる」


 隣のシトネを見ると「そうね」と返ってきた。母は少し余裕がなさそうだった。ミギリも伯父と伯母も表情が固い。ふたりの祖母は目を閉じてじっとうつむいていた。ひやりとした不安が背筋を垂れていった時、スサビがぽつぽつと話しはじめた。彼は最初にゆっくりと首を横に振った。

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