261 ヨワの覚悟⑥

『もっと大きな帆があるよ』


 コリコの樹に導かれてヨワの魔力が下へ流れていく。大き過ぎて見通せない。ヨワはすべての魔力を下方へ注ぎ込んだ。そこに広がるのはコリコの根っこだった。街や湖なんてとうに通り越している。平野から海岸まで果てしなく張り巡らされた巨大な帆が地平線のつづく限り広がっていた。

 こんなに大きな帆があれば簡単に飛べるのに!


『どうしてかなあ。ボクたちも不思議だよ』


 ヨワは魔力を通して浮遊の魔法使いたちに根っこを中心に支えるよう伝えた。すると魔法が安定していってだんだんコツがわかってくると口がきけるほどには余裕が出てきた。


「だい、じょうぶだよ、ススタケさん。なんとか、やれそう」


 汗が浮かぶ顔にホッとそえたススタケの笑みがヨワのことも安心させた。


「それじゃあマンジ、ズブロク、スサビは避難しろ。他の庭番も全員連れていけ」


 ススタケの言葉に三人は目を見開いて驚いた。


「逃げる? 冗談はよしてくれ。俺たちは庭番だ。最後まで樹を見届ける」

「そうだよ! 僕だって自分の役目を放り出すほど腰抜けじゃない……!」


 どいつもこいつも同じ覚悟だ、とマンジはその場にあぐらをかいた。いつも誰かの後ろにいるズブロクがそんなマンジと並んで立ち、彼をまねて腕組みした。ススタケはため息をついた。しょうがないな、と言うようなやわらかいものだった。いつものようにゆったり堂々と仲間に歩み寄った彼は、ここに残ることを許すものだと思っていた。


「マンジ。お前には上さんと子どもがふたりいるだろう」


 あっという間にマンジの頑とした表情が崩れた。


「ズブロク。その覚悟がありゃなんだってできる。お前の技と知識は後世に受け継がれるべきだ。今度こそいい人が見つかるさ」

「なんだよう! 長にだけは言われたくないよ!」

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