252 誤算④
問いかけにススタケが押し黙るとジャノメはヨワの首に腕を回して絞めた。
「うっ、ぐ……」
「答えろ」
「俺たち王族が事実をもみ消したからだ」
ススタケが認めるとジャノメはのどをくつくつと震わせて笑った。
「高潔で高貴な王族。その体面を守るためだけに私たちは……」
声を殺して笑いつづけるジャノメの姿はともすれば嗚咽をもらしているようでもあった。ヨワは顔を覆うジャノメの手にそっと触れた。ぴたりとのどの震えが止まる。指の隙間からヨワを見下したジャノメの目はただのガラス玉のようになんの感情も宿っていなかった。
「だからこそ次は私が切り捨てる番なのだ」
シトネ、とジャノメは母を呼びつけた。
「娘を殺されたくなければ封印の扉を開けろ」
哀れなほど震えてシトネはシジマやススタケの顔色を見た。だがうなずく者も首を横に振る者もいなかった。
リンが剣の柄に手をかけたままじっとヨワを見つめていた。彼ならヨワが魔法を使った瞬間に反応できる。だがジャノメの不意を突けたとして浮遊の魔法で拘束から逃れることは無理だ。首を絞められたまま何秒魔法の発動を維持できる? リンの剣が届いて助け出されるまでどれくらい――。
意識がもうろうとする。首にあてがわれたジャノメの腕が気道をゆるやかに圧迫しつづけていた。思考をまとめられない。足元がふらつく。
「ヨワ!」
崩れそうになったヨワを見てシトネは飛び出した。ジャノメに手で制された母はなにか決意を宿した目をしていた。振り返ることなく封印の扉に向かい、震える両手をかざそうとする母にヨワは声を絞った。
「ダメ、だよ」
息苦しさに涙をこぼしたヨワを見てシトネはくしゃりと表情をゆがめた。
「ごめんなさい。私、もう二度とあなたを失いたくないの」
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