251 誤算③
「ぐっ。この小娘が!」
片腕に首をわし掴まれる。ジャノメの手がぼこぼことひと回り大きくなっていき、顔から深いほうれい線が消え冷たい水色の双眼は緑に、ユンデと同じくせのついた赤毛は蜜色に塗り変わっていく。その姿はまさしくススタケであった。
「うっ、あっ」
ススタケに変身したジャノメはその大柄な体格に見合った腕力できつくヨワの首を絞め上げた。
「この扉を開けるんだ、ヨワ。いい子だから」
いつでもヨワを安心させてくれた包み込むようにやわらかい声で話しかけるススタケが、暖かく根っこの家族たちを受けとめてきた腕でヨワの首を絞める。めまいがした。夢でもうそでもこんな光景は堪えられない。
「い、やだ。ススタケ、さん」
やっと見つけた居場所であり血で結ばれた本物の家族だった。繋ぎとめたくて手を伸ばしたヨワをジャノメは抵抗と受け取り、両の手を首にかけた。
「やめてえ!」
シトネの悲鳴が響き、壁を蹴ったススタケがひと足先に降り立った。リン、シジマ、エンジも浮遊の力を借りて次々と降りてくる。ジャノメの手は首から離れたが、ヨワは抱えられた腕にすがりつき立っているのがやっとだった。
「ジャノメ。お前が恨んでいるのは王族である俺だろうが。ヨワは戦争さえ知らない世代だ。その子を巻き込むな!」
ススタケはジャノメに詰め寄った。シジマが素早く前に出ようとするも押し退けて突き進む。ヨワはジャノメの正面に立たされた。ススタケが三歩先で止まる。見上げた彼の顔は険しく彫刻のように強張っていた。
「今さら血も涙もある人間のように振る舞うのはやめてくれないか。きみたちは何度、私の祖先を切り捨ててきたと思っている。国のため王族のため、影武者やスパイとなった者は誰ひとり帰ってこなかった。今ある平和は私たちヴィオレフロッグ家の犠牲の上で成り立っている! だがその事実を彼女のような若い世代は知らない。それはなぜだ」
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