250 誤算②

 ジャノメの顔色をうかがいたいのを必死に堪えて、戸惑うシトネを鋭くにらみつけていた。


「ヨワ!」


 リンが叫んだ直後ヨワは後ろからはがいじめにされた。バインダーの落ちる音が響いて首に冷たいものが触れる。それは本性を現したジャノメが握るナイフだった。


「動くな」


 駆けつけたシジマとエンジ、ススタケに向かってジャノメはナイフを掲げ、見せつけるように再びヨワの首に突きつけた。その力は強く、のどを圧迫される苦しみとピリッとした痛みが走りヨワの呼吸が急速に上がる。


「私を逃すまいと少数精鋭を集めたようだな」


 押しつけられ胸を伝って不敵な笑い声が響く。その声はもうやわらかいシオサイのものではなかった。


「だがもとより私に逃げる考えはない」


 後ろに引きずられ、抵抗する内にみるみるジャノメの体が倒れていった。ヨワもろとも深いクリスタルの間へつづく通路の底へ落ちていく。


「きゃあ!」


 ヨワは必死に浮遊の魔法を発動した。寸でのところで落下が止まり、ゆっくりと床に足を着けたことに安堵するが、まんまとジャノメまで助けさせられたと気づいて悔しさが募る。

 クリスタルの間の扉前ではすでにクチバとスサビが魔剣を構えていた。


「剣を下ろせ。きみたちの剣より私のナイフがヨワの首を切るほうが速いとわかっているだろ」


 クチバとエンジは目配せして剣を下ろした。ジャノメが一歩扉に進むごとに刺激しないようじりじりと後退していく。手も足も出ない状況にクチバが「クソッ」と吐き捨てた。

 私のせいだ。その時ヨワは激しく後悔した。シトネの予期せぬ登場に機転を利かせたつもりが、それがジャノメに隙を与えることになってしまった。自分が挽回せねば。ヨワはありったけの魔力を練り上げてジャノメのナイフを弾き飛ばした。

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