249 誤算①
ヨワはしばし物陰に隠れて、シトネが出たのを見計らってから庭への扉を潜った。
「母親に会うのは気まずいのか」後ろをゆったりついてきながらリンが言った。
「そうだね、言いたいことが言えたのはよかったんだけど。今さら親子みたいに振る舞うのは気が引けるし……。そうなるとどんな顔して会えばいいのかわからないんだ」
広場に抜けるといつになくしんと静まり返っていた。庭師のマンジや薬師のズブロクは姿が見えない。ひとりシオサイがバインダーを手に歩み寄ってきた。
「やあ、ヨワさん。こんにちは」
「シオサイさん、ひとりですか?」
「ええ。豊穣祭の今日は特に忙しくてみんな根っこのあちこちに散っています。毎年こうなるらしいです。僕はクリスタルの様子を記録するように言われまして」
シオサイはバインダーを振って見せた。
「そうなんですね。それじゃあさっそくクリスタルの間に行きましょう」
ヨワは迷わずはしごのある扉を開いた。すべて同じデザインになっている扉の位置を覚えられず、何度も開けたり閉めたりしていた日々をふと懐かしく思う。リンはいつも狭い通路には下りずこの扉前で待っている。別れるリンに声をかけようと振り返った時、思いがけない人物を見てヨワは目を見張った。
「お母さん……」
そこには帰ったと思っていたシトネが立っていた。
「ヨワ、私もっとちゃんと話がしたくて……」
「もうなにも話すことなんてない! 帰って!」
ヨワはとっさに叫んだ。母との確執が少しでも軟化していると気取られたらシオサイ――ジャノメは違和感を抱くに違いない。ここで気づかれるわけにはいかない。まだシジマもエンジも位置についていない。逃げられてしまう。
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