253 クリスタルの暴走①

 目を見開いたヨワの前でシトネから魔力が解き放たれた。扉にかけられた封印の幕が青から緑へと波打ち、開錠の音が響いた。ヨワは突き飛ばされ受けとめたのは外にいるはずのユカシイだった。ロハ先生も、マンジやズブロクも騒ぎを聞きつけたのか押しかけていた。

 脇をリンが黒い風となって駆け抜けた。一目散にクリスタルへ向かうジャノメを追って剣を突き出した。ジャノメがベルトに隠し持っていたもう一本のナイフが青く輝くクリスタルと重なってせつな閃いた。ヨワは思わず短い悲鳴を上げた。騎士たちが封印の間に押し寄せてリンとジャノメが見えなくなる。身を案じるユカシイとシトネの声も頭に入らず、立ち上がって男たちの間から顔を突き出した。

 ジャノメが肩から血を流して倒れていた。変化の魔法は解け、本来の貧相な腕を背中にひねり上げているリンの剣には血がついていた。ナイフはかたわらに落ちているのをエンジが拾い、シジマが絶縁錠をジャノメの両手首にかけた。

 ヨワはクリスタルに目を走らせた。欠けることなく変わらない輝きを放っているように見える。ジャノメのナイフは届かなかったのか。ジャノメを立たせクチバとエンジに引き渡したリンは鋭い声でロハ先生を呼んだ。


「ナイフの当たる音が聞こえました。欠けてはいませんがここに傷がついています」


 ヨワとユカシイも人垣を掻き分けてクリスタルの元に駆け寄った。斜めに白い線が確かに走っている。ロハ先生の顔がみるみる青ざめていった。


「ダ、ダメだ。クリスタルには完璧な調和で魔力が流れている。この小さな傷でもその流れが乱れる!」

「直せないのか!?」


 大きな体を無理に押し込んでススタケがロハ先生に詰め寄った。


「クリスタルには自己修復能力がある。生きているからね。ただ直るまでどれほど時間がかかるかわからない。魔力の乱れが一体どんな影響を及ぼすか――」

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