237 敵の狙い①

「ちょっと待ってくれ」とリンを引き止めたススタケは、あごをさすり考えを巡らせた。


「この問題は大事おおごとにしないほうがいい」

「なぜですか」

「相手が変化の魔法使いだからだ。大事にするとどこから情報がもれるかわかったもんじゃない。ジャノメに察知されてネズミにでも化けられたら一生見つからん」

「それも、そうですね。ではどのようにお考えですか」

「兄貴たちには俺が個人的に話す。騎士は少数精鋭の者だけに――そうだな、シジマ隊がちょうどいいだろ。そっちも俺からススドイ兄貴に伝えるよ」


 ススタケはソファーから身を乗り出し、ひとりひとりの顔を見ながらつづけた。


「いいか。大事なのは確実にジャノメを捕らえられる時が来るまで奴に気取られないことだ。ヨワとリンはもちろん、ユカシイも、えっとそっちのぼうずは?」

「スサビ・ブラックボア。シジマ隊長の四男です」スサビは姿勢を正して答えた。

「おお。シジマのせがれなら信頼できるな。よし。ジャノメを捕らえるまで自然に振る舞うんだぞ。あと、このことは誰にも言うな。わかったか」


 一同は神妙にうなずき合った。ただひとりシトネだけは話が見えずうろたえるばかりだ。


「ですが、ジャノメを確実に捕らえられる時はいつでしょうか」とリンが投げかける。

「奴がしかけてくる時を待ち伏せるのが一番だろう。問題はその時期だな。そもそもなにが目的だ? ヨワが狙いなら実父に成りすます手間はいらないはずだ」


 確かにススタケの言う通りだ。ヨワだけが狙いならバナードのように隙を突いて襲えば済むことだ。庭番の仲間という立ち位置を得ていたジャノメにはいくらでもその機会があった。

 バナードは庭番の存在が気に食わず、その要であるホワイトピジョン家のルルを狙った。しかしヨワの父まで演じるジャノメの目的はもっと他にあるように思える。と、ヨワが考えにふけっているとシトネの大きな声が飛び込んできた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る