217 かわいい鎧①
「先輩、楽しそう」
ころころとのどを鳴らして笑ったユカシイに鼻先をちょんと押された。
「鼻、赤くしちゃってさ」
「これは日焼けしてっ。あんまりじろじろ見ないで」
「髪も結ったんですね。慣れないことするからちょっと乱れてるけど」
「えっ、うそ。どこ?」
「待ってまって。あたしがやってあげるから後ろ向いてください」
気の置けない後輩でも髪を触らせたことは今までなかった。竜鱗病を近くで見られることが怖かった。ヨワは緊張しながら背を向けた。ユカシイの手がおさげに結った髪留めにかかり、ほどいていく。手ぐしですく指先が頭皮に当たる度にヨワは、自分でも知らない湿疹に引っかかりやしないかとひやひやした。
ひとつ終わり、もうひとつのおさげも直してもらっていると最初よりはこの行為に慣れて肩から力を抜いた。するとユカシイの指がちょっとだけ心地よく感じた。
「ねえヨワ先輩。先輩はかわいいですよ」
「な、なんでそんなこと急に。私はかわいくなんてないよ」
「ほら」
ふわふわと髪留めのあたりを触られるとなにかある。自分でも触ってみて驚いた。なんの飾り気もなかったヨワの髪留めにりぼんがついていた。それの余りなのかユカシイは白いりぼんをひらひらと振って見せた。
「今の先輩は絶対にかわいい。あたしが保証する。かわいいは最強なんですよ。だから軽く一位獲ってきてくださいね!」
会話の最中でもひじの湿疹を隠していた手が震えた。壇上の人物に注がれているはずの周囲の目が自分の肌を見ている気がしてならなかった。歓声に紛れて鱗が気持ち悪いとささやく声が聞こえた気がしていた。視線を、声を、確かめる勇気もなく、自分は醜い星の元に生まれたから仕方ないと諦めた。ユカシイが隣で楽しそうにお喋りしてくれることが救いだった。
彼女がくれたものは鎧だ。醜さも弱さもすべて覆い隠し、物語の主人公の勇者のように振る舞っても誰も笑わない。
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