216 あなたと波に乗る④

 リンの心配を笑い飛ばそうとして思い直し、ヨワは微笑みを浮かべた。


「だいじょうぶだよ。ありがとう、リン」

「そう、か。よかった」


 ずぶ濡れになってようやく集合したヨワとリンにコーチは直接ものを言うことはしなかったが、練習を締めくくる言葉の中で「他の組に迷惑をかけない」「安全第一」が強調されていたのは気のせいではないだろう。

 確かに高速カーブの練習は人がいないところでやるべきだ。となると、合同練習の場しか用意されていないヨワには今後機会が巡ってくる希望は薄い。個人でボードを調達できたとしても普段の湖は水上バスの通り道となっているため使えない。海は波が高くて初心者には向かないだろう。

 残された道はもっと安全に練習する方法を探すことだ。帰り道もその方法を探すことに思考を囚われているヨワを、リンは嫌な顔で見ていた。




「それで、そのカーブの練習はできたんですか」

「うん。スピードは落ちるんだけど、安全にしかも絶対失敗しないやり方を見つけたんだ」


 八月。夏の盛りは今日だと言わんばかりに強い日差しが降り注ぐ青空の下で、いよいよ水上ボードレース世界大会のエキシビションマッチが開催されようとしている。

 ヨワは濡れても構わないひざ丈のズボンと半袖のティシャツにゼッケンを縫いつけた格好で、後輩のユカシイとともに開会式に出席していた。リンは会場やレーサーの警備にあたる他の騎士の動きを把握するためミーティングに顔を出していてまだ戻らない。代わりの護衛は見知らぬ騎士で近くの通路に立っていた。


「絶対に失敗しない? 本当ですか。気になるなあ」

「レースで見せてあげるね。ちょっと驚くかもよ」


 ボードレース協会会長やスオウ国王のあいさつをそっちのけにヨワとユカシイのお喋りは止まらない。また、どこどこの誰々の話が終わったらしく周囲が拍手するのにつられてヨワの手も動いたが音は鳴っていなかった。気持ちはレースに走り出していた。

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