206 夏の風物詩④
ボケとツッコミを交代しても板についているなんて名コンビだなと思っていたら、後ろからリンの両手が肩に置かれてヨワはどきりとした。
「あの、レースに出るのはだいじょうぶだと思います。大会全体とレーサーの警備は騎士団がつくんで、俺以外の目があるから安全は増します。むしろひとりで大学とか図書館にいられるほうが厄介です」
その言い方には語弊がある。まるでヨワが好きで引きこもっているみたいではないか。外に出たいけど出たくない、複雑な乙女心を理解していないリンのすねを軽く蹴った。
「イテッ。みんながレースに夢中になっている時にもし俺がやられたら、誰もヨワの危機に気づけません」
だがリンの考えは深かった。つい短気を起こした自分が恥ずかしくなりヨワはうつむいた。
「なるほどな。それならリンといっしょに出たらいい」
「なんでそうなるんですか! 僕がヨワさんを誘ってるんですよ」
突っかかるシオサイの胸元を人さし指で押し返し、ススタケは試すような眼差しで笑った。
「リンは騎士だ。いざとなったら体を張る覚悟がある。お前はどうだ。ヨワのために自分の命を懸けられるか」
「あ、当たり前じゃないですか。僕は、僕はその……ヨワさんを大切に思う気持ちは誰にも負けないつもりです」
ヨワをちらりと見る度に言葉尻から力が抜けていくシオサイに、ススタケは「カーッ!」と声を上げた。
「はっきりしねえな。わかった。お前の根性、俺とリンが試してやる」
「えっ、俺!?」
突然の変化球にリンは頓狂な声を上げ自分を指さした。ススタケは肩を組んでリンを引き寄せる。その勢いがよすぎてリンは痛そうに顔をしかめた。
「お前だってよ、護衛として中途半端なやつにヨワを任せられないだろ? こいつは二十年以上もヨワをほったらかしにしてたやつだぜ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます