205 夏の風物詩③
ヨワはいっしょにランチを食べたいと秘かに思っているが、それとなく誘ってもリンは下りてこない。よくも悪くも仕事バカな彼と、これ以上距離を縮めるにはどうすればいいのかわからなかった。
ロハ先生の論文に、浮遊の魔法使いの世継ぎ、バナード・ロードの共犯者、シオサイとの関係、そしてコリコの樹の老衰。問題は山積みだ。忙しさに追われる日々の隙間に考えてみるものの、ただ時だけが無為に過ぎていく気がしてならなかった。
「あっ、待ってくださいヨワさん」
扉を開けて出ようとした時シオサイに引き止められた。
「ぜひ見てもらいたいものがあるんです」
そう言ってシオサイは懐から折りたたんだ紙を取り出した。見ると八月に湖で開かれる水上ボードレース大会のちらしだった。
それはコリコ国の夏の風物詩になっているスポーツだ。毎年世界大会が開催され、全国から集まったプロレーサーが街の下を走る様をみんな楽しみにしている。大会前にはエキシビションマッチもおこなわれ、それには一般参加者と一組のプロレーサー、そして王族の誰かが出場することになっており毎回大いに盛り上がるのだ。
しかしヨワはロハ先生の論文の手伝いもあってこれまで図書館に引きこもっていた。汗をかくと湿疹のかゆみがうずくし、炎天下を長袖で耐えるのはきつい。ユカシイの誘いや観客の大歓声に引き寄せられながらも、竜鱗病の存在を振り払えなかった。
「まさかお前ヨワといっしょにエキシビションに出ようってんじゃないだろな」
横からちらしを覗き込んでいたススタケがシオサイをにらみつけた。
「ダメ、でした?」
「バカ! ヨワは一度命を狙われてるんだぞ。こんなのに出たら目立ってしょうがねえだろ」
「すみませんっ。最近忙しそうだから息抜きになればと思っただけで……!」
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